食べる楽しみ、食べさせる楽しみ I

 「食べると=生きること」であり、「生きること=楽しむこと」が私の栄養学の基本です。食べなければ死んでしまうし、生きているなら笑って暮らしたい。そして私と関わっている大切な人や犬たち、特に家族にもそんな風に暮らしてもらいたいと願っています。

 飼い主様にとって愛犬が食事をたのしみにし、おいしそうに食べているその姿を見るのは心休まるひと時であると同時に、健康状態が良いことを裏付ける嬉しい時間だと思います。しかし、なぜか食べてくれない、いつもお腹をすかせているなど、愛犬が満足していない状態は飼い主様を不安にさせますよね。そうです、何の理由もなく愛犬たちは大好きな「食べること」を拒否するということはありません。偏食や、わがままもまたその理由の一つであり、それらは飼い主様たちが作った原因だということを常に心がけていれば必ずその理由は見つかるはずです。

 たとえば、こんな飼い主様がいました「うちのコ最近食い意地がはってて、食べても食べても足りないみたいなの。袋に書いてある量はちゃんとあげているんだけど?」という質問でした。トイプードルのレイちゃんは1歳を向かえ、ちょうど成長期用のフードから維持期用のフードに切り替えたところでした。さらに、パピー用フードの値段が少し高かったことから、低価格の他のメーカーのフードにしたそうです。

 なぜレイちゃんはいつもお腹をすかせているのでしょうか? これは、あげているフードの量はラベル通りかもしれませんが、必要なエネルギー量が満たされていない場合に生じているようです。こういったフードは一般的に動物性たんぱく質を中心に構成されておらず、穀類中心のフードです。穀類中心なため「かさ」つまり「量」的には満たされているのですが、「たんぱく質」が不十分なのです。
 レイちゃんがそれまで食べていたパピー用のフードはたんぱく質が十分に含まれていたのに、急にたんぱく質の量がぐっと減ったため、「細胞が飢餓状態」になっているのです。身体は殆どがたんぱく質と水でできており、細胞はそれらを校正するために必要なたんぱく質量を確保するように脳に支持をします。たとえば、AとBのペットフードが100gずつあったとします。たんぱく質の含有量はAには10g、Bには30gで、レイちゃんに必要なたんぱく質が1日に30gだとすると、Bのフードは100g食べれば「細胞が満足」しますが、Aのフードでは30gのたんぱく質を確保するために、300gのフードを食べないといけません。しかし、実際にラベルに100gと書いてあったら飼い主様は100g前後しか上げないだろうし、仮に300g食べたら今度は「肥満」になってしまいます。
 つまり、このフードの栄養構成はレイちゃんに適していないため、いつもお腹をすかしているのです。レイちゃんには動物性たんぱく質で構成された、代謝可能エネルギー(ME)の高いフードに切り替えるように薦めたところ、空腹感が消え、いつもお腹をすかせていることはなくなったそうです。

 飼い主様はペットフードのラベルを見たり、かつて食べさせていたりしたものと比較したりすることは殆どありません。しかし、そこには大切な情報が記されています。フードと食欲、健康状態などを記録しておくと、同じような疑問が出てきたときに答えが見つかるかも知れませんよ。ちょっとした知識が「食べさせる楽しみ、食べてくれる楽しみ」を教えてくれますよ。

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