高度獣医療

軟部組織外科

アニホスにおける高度獣医療

Pet Clinic アニホスでは一般診療に高度な技術や医療機器を組み合わせて診断・治療を実施しております。
高度な獣医療に欠かすことのできない医療機器および治療の一部をご紹介いたします。
(一部手術の写真も含みます。血や傷が苦手な方はご遠慮ください。)
犬の肝臓腫瘍・肝細胞癌
気管内リング設置術
骨折治療
椎間板ヘルニア
 

犬の肝臓腫瘍・肝細胞癌

アニホスでは肝臓腫瘍の摘出に力を入れています。
犬における肝臓にできるしこりは、手術で摘出することにより長期生存が期待できる肝細胞癌・肝細胞腺腫・結節性過形成の発生が多く、悪性度の高い胆管癌・血管肉腫・カルチノイドは比較的少ないです。発生率は肝細胞癌・肝細胞腺腫が60~70%、結節性過形成が20~30%、胆管癌・血管肉腫・カルチノイドが10%未満とされています。
手術をしないで放置をした場合は、腹腔内出血や肝不全徴候、腹水症、消化管圧迫による食欲不振・嘔吐・下痢等を呈して生命に関わります。内科治療による進行の抑制は困難なため、基礎疾患や体力に問題がなければ外科切除が第一選択となります。
塊状の肝細胞癌が完全切除できた場合、生存期間中央値は1460~1836日とされています。
しかしながら、肝臓腫瘤摘出は大量出血や術中死のリスクもあり、術中死亡率は4.8%、出血・一時的な低血糖・肝機能低下などの合併症は28.6%で認められたという報告もあります。
アニホスでは少しでもこのような合併症を予防するために、予めCT検査を実施して得られた体軸断面・矢状断面・冠状断面の3つの断面画像から腫瘤の位置や血管走行などを加味した上で複数の外科に習熟した獣医師が計画を練った上で手術に臨みます。
(下図の矢印が肝臓腫瘤です。)
また、リガシュアやサンダービートなどの高度医療機器を駆使して出血を極限まで抑えて手術を実施しております
体軸断面 矢状断面 冠状断面
時に腫瘤の3D画像を構築して、手術前のイメージングの一助にします。
3D構築したCT画像 実際の開腹時の肝臓腫瘤
 ※ご覧なりたい方のみ写真をクリックしてください。

肝細胞癌の患者様

リンちゃんは2020年6月に肝酵素上昇の精査で 肝臓にしこりが見つかりました。 手術後の病理組織検査で肝細胞癌であることがわかりました。 手術当時は14歳と比較的高齢でしたが、手術も無事に乗り越えて 術後3年1カ月経った現在も再発は認めずにご健在です♪ リンちゃん

 

気管リング設置術

アニホスでは、気管虚脱に対して、気管リング設置術を実施できます。 内科治療を実施していても呼吸が苦しい、咳が止まらないなどでお困りの患者様は外科治療のセカンドオピニオン もお受けいたします。

内科治療に反応しない重度のアヒル様呼吸音や呼吸困難症状が持続した場合や、気管内腔が 75%以上減少した症例 に対しては、手術適応を検討します。

【気管リング設置術】
New Generation Devices 社製気管リングを下写真のようにつぶれた気管の外側に設置し、気管軟骨および膜性壁を縫合することにより気管を拡張させます。 このリングは世界で唯一の商品化されている動物用の気管拡張を目的とした外科デバイスです。 近年では、この術式により比較的良好な治療成績が報告されおり、呼吸状態の改善のみならず咳の緩和も期待できることが気管内ステントとの違いです。ただし、気管内ステントと異なり胸腔内気管への設置はできません。 気管リング設置術の合併症としては、術後発咳、呼吸困難、喉頭麻痺、気管壊死などがあり、術中の気管への血流 や神経の愛護的な取扱いが必要になります。 術後に喉頭麻痺を認めた場合は、片側披裂軟骨側方化術(気管入口の軟骨を外側に引張り、呼吸を楽にする手術) が必要となります。
New Generation Devices 社製気管リング 気管リング設置症例の手術中所見

気管リングの製品および手術写真は、販売元 SANEI AMERICA 社の許可を得て、SANEI AMERICA 社 Web Site より転載

 

整形外科・神経外科

骨折治療

アニホスでは、世界的な骨折治療の基礎的、臨床的研究グループであり、スイスに本部を置く非営利団体AOVETが開催する骨接合法に関するAO Courseを終了した獣医師が骨折手術に携わります。

骨折は犬や猫において多く認められる一般的な疾患です。骨折後、放置または適切な治療が行われない場合には、癒合不全(骨が癒合しない)という状況に陥り、深刻な場合には骨が痩せ細って完全になくなってしまうケースも存在します。骨折の治療には外固定(ギブス等)、内固定(プレート等)装置等を使用する方法がありますが、現在主流となっているのはプレート及びスクリューを用いる内固定法です。プレートとスクリューを用いて直接骨に設置することにより、骨折部の安定性が得られ癒合不全になりにくいとされています。
外固定のみの治療に比べて骨折の治癒率を改善したプレート法ですが、旧型のプレートでは骨に対して圧迫した力をかけなければいけないため、骨膜血流(骨とプレート間の血流)の低下による皮質骨壊死(骨が弱くなる)、1次性骨癒合による弱い状態での骨癒合、スクリューのルーズニングによるインプラントの破綻等の合併症が問題視されてきました。そこで人医療の方ではロッキングシステムというプレートとスクリューを直接固定する方法(骨とプレートの圧迫が無い)が開発されました。このシステムの利点としては骨から浮かせてプレートを設置できるため、骨膜血流の温存、ルーズニングの低減によるインプラント破損率の低下、2次性骨癒合(仮骨形成)による強い状態での骨癒合とされており、旧型のプレートの欠点を補っているとされています。

アニホスでは、近年獣医療にも導入され、ロッキングシステム及び旧型のシステムとしても使えるLCPプレート(DePuySynthes社製)等を使用して骨折の治療を行っています。但し、LCPプレートは関節内骨折や三次元的にプレートを曲げなければいけない骨折部位には不適であるため、全ての骨折に適用するわけではなく、一つ一つの症例に対してどのプレートが適切か、またプレート法以外の方法の方が適切ではないのか、ということを獣医師同士で検討しながら治療を実施しております。
橈骨にLCPプレートを適用 大腿骨にLCPプレートを適用
 

椎間板ヘルニア

犬において、多くの神経疾患の中でも椎間板ヘルニアの発生率は高く、症状が出ると痛みや四肢の麻痺に陥ることがあります。椎間板ヘルニアとは、椎間板の一部が脊髄神経を圧迫・障害した状態で、頸部及び胸腰椎移行部、腰椎などの可動性が高い部位で好発し、麻痺が進行すると歩行困難や排泄異常を起こします。

椎間板ヘルニアは髄核(椎間板の中心)が飛び出すハンセン1型と線維輪(椎間板の外側)が膨隆するハンセン2型に分けられます。犬は人の髄核と比べて硬いため、急性のハンセン1型のような強い衝撃を神経が受けた場合、脊髄神経の中心部までダメージを受けることがあり、その場合神経障害としては最も重度な深部痛覚の消失に至ることがあります。深部痛覚が消失した犬の約3~6%において脊髄軟化症という脊髄神経が進行性に壊死する状態に移行することがあり、これが延髄に到達すると死に至ります。

椎間板ヘルニアの治療法には保存的治療法(薬剤やケージレストにより神経の炎症や浮腫を軽減させる)、外科治療法(飛び出した椎間板物質の除去)があげられます。神経障害の程度の軽いものには保存的治療で症状の改善を図りますが、再発症例や神経障害の程度が強い症例に対しては外科治療法で対応します。外科治療法では皮膚を切開し、骨を削って脊髄を圧迫している椎間板物質の除去を行う方法をとります。レーザーを当てて髄核を融解する方法もあります。一般的にハンセン1型では外科対応による椎間板物質の除去、ハンセン2型では椎間板物質の除去またはレーザーによる髄核の融解が適応とされています。
胸腰部椎間板ヘルニア(MRI所見)
椎間板物質により脊髄が圧迫されている(矢印)
外科手術にも方法が複数存在し、現在主流と言われているのがヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)及びミニラミネクトミー(小範囲片側椎弓切除術)です。
アニホスでは椎体の切除範囲のより小さいミニラミネクトミーを主に実施しております。ミニラミネクトミーはヘミラミネクトミーと異なり椎体の関節突起を温存する術式で、手術成績はヘミラミネクトミーと比較し異ならないと報告されているものの、理論的には関節突起を温存することにより椎体の捻じれに対する安定性が向上するとされ、大型犬や運動量の高い症例に対しては術後の椎体への負担の軽減ができる可能性があります。また、皮膚の切開創が小さくできるのもメリットです。
ただし、椎間板物質の逸脱状況により、大きな視野を確保するためにヘミラミネクトミーに移行することもあります。
椎体切除範囲例(Jonathan L et al, Can Vet J. 2014 May;55より転載)
A:正常な椎体 矢印は関節突起
B:ヘミラミネクトミー(片側椎弓切除術)の切除範囲
C:ミニラミネクトミー(小範囲片側椎弓切除術)の切除範囲 矢印は関節突起