子犬をはじめて迎えたら…

 最近、子犬を飼い始めた友人が二人います。一人は普段の会話に犬の「い」の字も出てこなかったほど、特に動物には興味が無かった友人Aさん。そしてもう一人は子供の頃からコリーを飼っていたBさんです。犬の飼育の無経験者と経験者。それぞれ子犬を迎えて色々な困惑があるようです。

 Aさんはミニチュアダックスフンド女の子を家族の一員に迎えました。時々入ってくるメールには「寝ているときはかわいい!でも起きているときは悪魔!!ちょっと育児疲れです」と、その奮闘振りがうかがえます。遊ぶときのそのやんちゃぶりもさることながら、彼女を悩ましているのは、夜中3時の排便。かつシートにウンチをするとそれを知らせるので毎晩夜中に起きなくてはならないそうです。本来ならば熟睡しているだろうその時間になぜ排便をするのでしょうか?「食事時間や睡眠時間は規則的?」そうたずねると「そういわれると私たちが起きている間はずっと起きていて、結構寝るのが遅いかも.?」なるほど、おそらくこの子は生活のリズムが狂っているのかもしれません。子犬というのは寝たり起きたりするものですが、昼間と夜の睡眠の違いは「光」です。体内時計は太陽と一緒に働くため、夜間は暗くして睡眠をとることで、身体に必要なホルモンやたんぱく質が十分に合成できるのです。ですから夜遅くまで電気が煌々とついている部屋で寝ていても、体内時計は光のため、身体に熟睡モードの信号を送れません。世の中すべてはバランスとタイミング。これらが一致したときにこそ最善の結果を得ることができるのです。特に成長が盛んな子犬の時期にはこういった気配りが大切です。また、まだ順応性も低いため、寝る直前まで一緒に遊んでいて、突然「はい、おやすみなさい」という切り替えは興奮しやすい子犬には無理というもの。夜型の彼らとって、自分たちが落ち着いたその時間にたくさん遊びたい気持ちは分かりますが、それでは神経が興奮し、身体が熟睡できません。寝る前はマッサージなどのコミュニケーションをして心を落ち着かせ、せめて照明を落とし、静かな環境作りをしてあげたいものです。「食事はドライフードをふやかしてるんだけど、今はふやかす時間を短くしているの」とのこと。もちろん飼い主としては徐々に固いものをという思いからそうしたのだと思いますが、実はこれでは食事の消化にはよくないのです。ふやかす場合は、中まで十分にふやけているかどうかを確かめてください。そのためにフォークなどでつぶしてあげると良いでしょう。表面だけが柔らかいとかえってその部分がべたべたと歯にくっついて歯垢などの原因となります。また、消化のための消化液は胃腸に入った食べものの質や水分含有量に適したように働くため、理想的にはドライならドライ、ふやかしているならふやかしているとその質を一定させた方が良いのです。

 Bさんは、元気一杯のジャックラッセル・テリアの男の子を迎えました。そのやんちゃぶりもまたパワー炸裂な様子で、ペットシーツはすべて食いちぎるため、タオルをしいたものをトイレにしているそうです。この行動は、おそらく彼女の家へ来る前からのものでペットシーツをおもちゃとしてとらえているのかもしれません。彼女の場合、過去に飼育経験があるため、その育児を楽しんでいる余裕がみられますが、一方で過去の経験を元に考えるため現在では当てはまらないことが出てきていました。それがフードへのサプリメントの添加です。彼女がまだ子供の頃にいたコリーはドライフードに粉ミルクと(犬用?)粉チーズのようなものをかけてあげていました。そのせいか、彼女も現在のフードにコロストラムミルクの粉をかけてあげているとのこと。コロストラムミルクは初乳のことで、子犬は生後すぐに母犬の母乳からこれを飲むことで、抵抗力をつけます。人間でも免疫力アップのためにこういったサプリメントがあります。さらに健康に良いだろうと他の種類のサプリメントも加えたいとのことでした。しかし、現在のフードは質も添加成分も向上し、過去の商品とは異なります。高品質なパピー用の総合栄養食は、そのフードと水のみで最適に成長できるようにできています。また、子犬の身体はまだ未発達で、栄養を消化吸収する腸管、毒素や身体に不必要な物質を排泄する肝臓や腎臓などが十分に発達していません。過剰な栄養素の摂取はかえって、身体に負担をかけることになります。特に、カルシウムを添加する傾向がありますが、過剰なカルシウムは骨の形成不全などの原因となるため、必要はありません。ですから、何かを加えることよりも、その個体に適したフードを消化吸収の良い形で、十分に与え、きちんと摂食させて良いウンチをしているかを観察していくことの方が大切です。

 そのほかにも、飼い主自体が新しいこの環境に興奮気味なため、次々と「犬といえば.」的な新しいことをしたがりますが、彼らはまだ発展途上。一つずつ、徐々に新しい環境になじませていってあげてください。飼い主にとっては経験があり、先の見えることでも彼らにとっては見たことも聞いたこともない初めてのことだらけなのですから。特に、最近の子犬は早く母犬や兄弟たちから話され、十分な社会教育を受けないままに人間の手に渡ってきます。突然の環境の変化は彼らにとって大きなストレスであり、それを理解しないで、人間の都合だけに合わせて物事を運んでいくと、トラウマになり、いずれは問題行動の引き金にもなりかねません。さらに、子犬は消化器官が安定しない上に、ストレスと消化能力は密接に関係しています。排便の質やリズム、嘔吐、下痢などは病気の有無のほかに精神的な要素に関しても考慮してみましょう。新しいものを与えることよりもまずは無理をせずに、ゆっくりと、最低限必要なことをしっかりと与えてあげてください。

一覧ページへ戻る