学会誌 2000年

動物臨床医学雑誌 vol.9 No.1.2000.p31-34 技術講座

●クラーク胸腔穿刺針利用による胸腔カテーテル留置法(猫の膿胸)

研究者:橋本志津、山岡新生、山村穂積


動物臨床医学雑誌 vol.9 No.1.2000.p13-18

●猫の肝に発生したカルチノイド腫瘍の1例

研究者:山口光昭 浅沼秀樹 橋本志津 古川修治 弓 削田直子 三枝早苗  山上哲史 山村穂積


動物臨床医学雑誌 vol.8 No.4

●犬の気管支腺癌に対して肺葉切除と化学療法を実施した1症例
研究者:山口光昭  橋本志津 古川修治 三宅ゆかり、弓削田直子、板倉裕明、三枝早苗、山村穂積 山根義久


動物臨床医学雑誌 vol.7 No.3

●技術講座:犬の被膜下前立腺切除術
研究者:山村穂積


獣医皮膚科臨床誌 Vo6.No.4、36-38、2000

●爪真菌症を伴う犬のTricophyton mentagrophytes感染の一例
研究者:石部孝宏、三枝早苗、新谷恭子、中村遊香、 山村穂積

 7歳、雌のダルメシアンにみられた爪真菌症を伴うTricophytonmentagrophytes(以下、T.mentagrophytes)感染の一例を報告する。臨床的に爪の変形を伴う足指深部膿瘍と、強い掻痒感を伴う顔面、四肢、体幹側面皮膚の紅班、脱毛、落屑および痂皮形成が認められた。病理組織像では、爪、表皮および被毛の角質層および痂皮内に糸状菌の菌糸を認めた。真菌培養により、T.mentagrophytesが検出された。3ヶ月のイトラコナゾール投与後、5ヶ月間テルビナフィン投与を行い、感染の陰性化を認めた。


獣医麻酔外科学雑誌 Vol.31、July 2000,100〜102

●腹膜心膜横隔膜ヘルニアの整復法 
研究者:弓削田直子  

 犬および猫の先天性横隔膜ヘルニアには、横隔膜欠損、裂孔ヘルニア、胸膜腹膜ヘルニア、腹膜心膜ヘルニアなどがあげられる。いずれの疾病もその発生率は極めて低い。これらの先天性横隔膜ヘルニアのなかでは、比較的多く認められる腹膜心膜横隔膜ヘルニアの整復方法を取り上げてみたいと思う。
 腹膜心膜横隔膜ヘルニア(PPDH)は、猫よりも犬に多く発生するとされている。雌雄における発生率の相違は認めれていない。また、PPDH症例は先天性心疾患や胸骨疾患なども伴うこともある。PPDHの症例の約50%は、生後1年以内に発見されるが、剖検時に発見される場合もあり必ずしも若齢で発見されると特定はできない。犬の場合には比較的早期に発見されるが、猫では、犬よりもこの状況に耐えうるので、発見が遅れるようである。

PPDHの病態
 胎生期には心膜腔と腹腔の間に交通があるが、胚形成期に横隔膜諸成分(特に横中隔)の形成不全あるいは、癒合不全がある場合にPPDHが生じるとされているが、正確な原因は不明である。

臨床症状
 PPDHの臨床症状は多彩である。心膜腔内に逸脱する臓器内容、ヘルニア輪の大きさ、あるいは、ヘルニア内容の量によっては無症状で経過する例もみられる。比較的多く認められる症状としては、運動不耐性、頻呼吸あるいは呼吸困難などの呼吸器、心疾患に類似した症状がみられたり、扁平化した腹囲、発育不全、食欲不振、嘔吐、時に持続した下痢などの消化器症状がみられ、特徴的な症状ではない。

診断
 まず、他の多くの疾病と同様にまず一般身体検査をおこなう。聴診の際に心音聴取が困難な場合もある。通常レントゲン検査によって確認することができる。必要ならば造影剤を経口的に投与して撮影することも良いと思われる。その他超音波検査を実施することも非侵襲的に確認することができる。

手術方法
 手術は、腹部正中切開によって行うが同時に胸骨縦切開をすることにより、より一層手術は行いやすくなる。
 開腹の切開線は、剣状軟骨から上腹部となるがこの切開線の範囲はヘルニア内容物に左右されるが、通常臍部までを切開する。開胸は、胸骨の中央部を胸骨柄から剣状軟骨まで確実に正中で切開する。この際胸骨の左右両側には、内胸動脈.静脈が走行していることからこれらの血管を損傷しないように注意して切開を実施する必要がある。通常胸骨正中を正確に切開すればこれらを損傷することはないが、内胸動脈から側枝が分かれ左右の動脈を連絡する形で走行していた例があるので、切開は慎重に行う。したがって胸骨縦切開は一気に行わず、最後の骨膜を残して鋸断を中止し、実際の開胸では尖刃を用いて骨膜を慎重に切開する必要がある。内胸動脈.静脈の損傷を来した場合には多量の出血を招く。
 開腹開胸が行われた時点で心膜、横隔膜および腹腔臓器を直視することができる。ヘルニア内容としては肝臓が最も多いが、同時に腸管、大網、あるいは脾臓を包含する例もある。いずれもヘルニア内容を腹腔内に還納するが、内容物が心膜腔に癒着していることがある。このような場合には心膜をヘルニア輪の部分から頭側に向かって切開する。切開後剥離かん子を用いて癒着部位を丁寧に剥離し、ヘルニア内容を心膜腔から腹腔へ還納する。
心膜を切開するときは、正中に近い部位を選択し、横隔神経、迷走神経および左反回(咽頭)神経など心膜上を走行している神経を損傷しないように配慮する必要がある。
次に、切開した心膜にデプリードマンを施し心膜を縫合する。心膜の縫合には4−0の吸収性縫合糸を用い単純結さつにより数カ所結さつする。通常心膜縫合は切開に伴う炎症産物の廃液を考慮して、縫合間隔をかなり大きく取る必要がある。
 心膜縫合の後、横隔膜を縫合する。横隔膜の縫合には3−0の非吸収糸を用いてスライデイングマットレス縫合を適用する。さらに胸腔内を陰圧に維持するためにその部分に連続縫合を施す。この際ヘルニア孔が大きく直接縫合が不可能な場合には、腹直筋の筋膜を利用したり、メッシュなどの人工物を用いて縫合をほどこす必要がある。
 ヘルニアの整復が終了したら、定法どおり閉胸および閉腹を行う。この場合胸腔内の陰圧操作および廃液を目的として、胸腔内ドレーンを留置する。

まとめ
 PPDHは、臨床症状も特徴的でなく無症状から、重篤な症状までさまざまであり、先天性心疾患や胸骨の異常を伴うこともある。