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雑記帳

オーストラリア・イヌの理学療法(リハビリテーション)セミナー

2007年8月31日 岡田みどり

 


はじめに

 近年、獣医界において、動物理学療法(リハビリテーション)は神経疾患、整形外科疾患に対する補助的療法として、重要視されつつある。今回のPhysiotherapy for the canine industry courseは初級レベルで5日間の日程で講義と実習が行われた。Pet Clinic アニホスでは理学療法を積極的に行っている。このため、少しでも多くの情報を入手し、さらなるスキルアップ求め、橋本志津と岡田みどりの二人で参加した。

 


講習会の概要


fig 1
 
fig 2
 今回の理学療法セミナーはワールドドッグカレッジ主催の日本人対象セミナーであった。オーストラリアのメルボルンに近い、ダンデノンにあるDogs in Motion Canine Rehabilitation Centerで行われた(fig 1.2)。

 Dogs in Motion Canine Rehabilitation Centerは、オーストラリアではじめてイヌ専門の理学療法センターとして、オーナー兼動物理学療法士であるMichelle Monk先生により5年前に設立された。このセンターには水中トレッドミル(fig 3.4)があり、その他にプール(fig 5)もあった。受け入れ患者数は予約制で、一人につき30分の療法時間をとっており、最大1日16人まで受け入れ可能とのことであった。その他、プールは予約無しでも泳げるようになっていた。


fig 3
 
fig 4
 
fig 5

 


日程とその内容


fig 6
 講習は朝9時から夕方5時まで行われ、1日目はどのように動物理学療法が確立したか、法的問題、獣医師からの委託による治療形態、ビジネスとしての将来的展望、理学療法の目的と利点についてなど、動物理学療法のバックグランドについての説明であった。 その後は動物とヒトの比較解剖学の講義を受け、グループに分かれて解剖の触診実習を行った(fig 6)。

 さらに、理学療法を必要とする一般的な疾患についての説明があった(表1、2)。理学療法が適用される最も多い疾患は十字靱帯断裂とされ、Michelle Monk先生が治療した症例の50%が十字靱帯断裂での患犬であり、外科治療後の理学療法はかなり効果が高いとのことだった。また、手術を行わなかった症例においても、経過観察の保存的療法で理学療法は適応されていた。また、椎間板ヘルニアやWobller症候群などの神経疾患においても理学療法は必要である。Michelle Monk先生は何度も繰り返し、どの疾患においても、理学療法を早期に実施することをすすめていた。実際にPet Clinicアニホスでは獣医師が看護師と一緒にプログラムをたて、術後翌日より理学療法を開始する。中でも理学療法を実施する一番多い症例は胸腰部の椎間板ヘルニアである。

表1:
理学療法を必要とする一般的疾患
(整形外科疾患)
  • 十字靱帯損傷
  • 膝蓋骨脱臼
  • 大腿骨頭切除
  • 股関節形成不全
  • 全股関節置換術
  • 3点骨盤骨切術
  • 肩の手術
  • 肘の形成不全
  • 肘の手術
  • 骨折
  • 脊椎炎・関節炎
  • 筋肉挫傷・捻挫
  • 靱帯・関節の手術
  • 運動性の低下
  表2:
理学療法を必要とする一般的疾患
(神経系疾患)
  • 脊椎の脱臼、骨折
  • 椎間板ヘルニア
  • 脊髄外傷(圧迫が無いもの)
  • 線維軟骨塞栓症
  • ウォブラー症候群(頸椎の奇形)
  • 変性性脊髄症
  • 多発性神経根神経炎


fig 7
 2日目はアセスメント法(評価方法)についての講習であった。理学療法を開始する前にはしっかりしたアセスメント法が必要であり、また定期的にアセスメントを繰り返す事が大切である。歩行検査は独自のグレード分類を用いて行い、毎回、治療を行うヒトが異なっていても確認できるようなっていた。どのような歩行が異常なのかを見極める前に、そのような歩行が正常なのかを判断できるようにすることが大切だと説明を受けた。また、歩行検査においては、walk trot canterという3つの方法で行い、実際の患犬でそれぞれの歩行をさせ、跛行(足がふらつくように歩くこと)を確認した。跛行診断する上でのポイントを実際にみながら確認できたことは貴重な体験となった(fig 7)。 

 3日目はマッサージ(fig 8)、エクササイズ(fig 9)、電気治療(fig 10)、レーザー治療(fig 11)、温熱療法(fig 12)と冷却療法(fig 13)についての講義で興味のあるところであった。これらはすでにPet Clinicアニホスの理学療法プログラムにも入れてあり、ほとんどの症例で行っている。マッサージは成書にたくさんの方法が記載されており、どれを使用していくべきか検討課題であった。しかし、Michelle Monk先生は、理学療法は様々な方法があるので、正しい方法は一つではないといっていた。また、当院でも常に大切にしていることとして、マッサージはリラクゼーション効果をもたらすため、どの疾患でも行うべきであるという考えには同感であった。講義の後、グループに分かれてマッサージの実習を行った。大型犬のマッサージはやりやすいが、体力を必要とするため大変であった。椎間板ヘルニアの症例は後肢が動かないため、後肢のマッサージを中心に行っていたが、前肢にはかなり負担がかかることから、前肢の筋肉や背中のこりをほぐす目的でもマッサージを行うべきであるとのことであった。


fig 8
 
fig 9
 
fig 10

fig 11
 
fig 12
 
fig 13

 4日目はMichelle Monk先生の一番得意とするハイドロセラピー中心の講義と実際の症例での見学であった(fig14)。このセンターではプールと水中トレッドミルがあった。ハイドロセラピーは浮力を利用して行うエクササイズで、地上でのエクササイズを制限されているイヌでも簡単に行うことがでた。Pet Clinicアニホスではジェットバス内で小型犬は泳がせている。 しかし、水に慣れていない犬はいきなり泳がせることはストレスがかかるといけないので、水に慣らすことからはじめている。


fig 14

 5日目はコース中に実施したアセスメント法や治療法について復習しながら、疾患ごとの症例についての説明を講義とビデオで行った。そして、今回のセミナーの総まとめとして、グループに分かれ実際の症例についてアセスメントを行い、治療計画を立て、発表し、ご指導を頂いた。

 

 


オーストラリアのAnimal physiotherapist(動物理学療法士)

 オーストラリアのAnimal physiotherapist のMichelle Monk先生は、20人しかいないAnimal physiotherapistの一人である(20人中小動物のAnimal physiotherapistは12人)。Animal physiotherapistは、最低6年間大学で学び、トレーニングを受けなければならない。最初の4年間でヒトの理学療法の学位を取得し、その後2年間の動物理学療法の修士課程を習得することができる。しかし、それには2年間の臨床経験が必要となる。Animal physiotherapistはまた、オーストラリア理学療法協会の特別なグループのひとつであるAnimal Physiotherapy Grope (APG)に所属する必要がある。APGでは、理学療法士の最新の技術を保つため、コースや講義を設けている。オーストラリアでは公的な資格を持ったヒトのAnimal physiotherapistのみが、理学療法を実施することが可能なため、獣医師が理学療法を実施することはできない。しかし、Animal physiotherapistは獣医師の紹介状に基づき、治療を行わなければならない。日本ではまだどの立場の人間が理学療法を行うのか、はっきりとしていない。オーストラリアでのそのようなしっかりとした連携システムにも感銘を受けた。

 


おわりに

 ワールドドッグカレッジ主催の日本人対象セミナー、Physiotherapy for the canine industry courseは今年の9月にも開催される予定がある。また、今回の講師であるMichelle Monk 先生が来日する予定もある。(詳細はワールドドッグカレッジのホームページ参照。)

 最後に本稿取材に当たって快く取材に応じてくれた、Michelle Monk先生と本セミナーの通訳であったルール久枝さんに、またこのような機会を与えてくれたPet Clinicアニホスの院長はじめスタッフ達に改めて謝意を申し上げます。

 


 

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