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雑記帳

私の動物病院づくり “未来に残す森,そして夢を生かすために”
2004年7月31日

思わぬ天からの贈り物

そもそもの新病院構想の始まりは,前触れもなく舞い込んで来た土地の話であった。その土地は旧病院から100mほどの所の環状七号線と川越街道(254号線)との交差点から川越街道を下り2件目の一角,木造アパート2軒,鉄骨3階建ての建物と木造民家の合計4軒分,526.57㎡(159.287坪)の敷地である。折りしも,私の還暦(2003年11月23日)を盛大に祝ってくれたスタッフへのお礼を何にしたらよいかと考えているときであった。そこで,この土地の購入に当たり,スタッフの意見をきくところから話が始まった。

1,建築構想

スタッフの意見も取り入れ,新病院建設と土地の購入は決定した。次は誰に設計を頼むかである。

まず土地を手に入れたことにより知り合った,多く人たちの中に一級建築士の方がいて,女性の設計士を紹介くださった。しかし折りが合わずさらに別の設計士を紹介してくれた。その方が淵辺懿 一級建築士(風景舎)で,2004年1月に設計料金が提示され契約が成立した。

契約後,約160坪の土地にどのような動物病院をつくるかのコンセプトや構想,鉄骨造りか鉄筋構造か,駐車場の収容台数や部屋数,その広さを決めると同時に,旧病院で使用していたすべての医療機器,機材,家具などを書き出し,これらの設置位置を決めた。この作業をしていくうちに建物の規模や構造の概略ができ,最終的に総床面積1854.03㎡(約565坪),5階建て鉄筋コンクリート造りとなった。

また,次の時代,変わる時代に合うような動物病院名とするために,新病院名をスタッフから募集した。その結果,以前からホームページドメインとして使用していたanihos.comをそのまま使用する形で「アニホス」と決まった。意味は,命とのかかわりanime,animaと,安らぎと癒しhospitalityで,今までの一貫したコンセプトの「命との真剣な対話」と「心のこもったふれあいを」を表わした。また,動物病院の建物が大きくなることで総合動物病院や高度動物医療センターと間違えられることも予想された。そこであくまでも地域の顧客のお付き合いを目指すという意味でPet Clinic とした。

2,施工業者決定

淵辺 懿先生が作成された新築工事基本設計概要書をもとに,2004年4月9日に建設業者を一同に集め,下記のような内容で「未来に残す森,そして夢を生かすために」というオリエンテーションを開催した。

  1. 開業予定を2005年4月中句とする。
  2. 建築支払い条件は完成時一括払いとする。
  3. 旧動物病院の顧客の来院に支障を来たさないようにする。
  4. 建設計画から医療機器の移設,そして完成までの計画にかかわる人のチームワークを大切にする。
  5. 着工に当たり,よりよい作業チームを作るために,施工関係者同士の協力関係を築く。
  6. 円滑な進行で完成期日を遵守する。

最近の建築は,既存のパターンの中からの選択を求められたり,建主の希望よりも建築家の意向が尊重されてしまう傾向にあるように思う。しかし,本来の建築とは,家を建てたいと思った人が,どのような家を作るかを決め,建築を手伝う人たちが森に行って必要とされる木を選び,切り倒し運んでくる。そして目的とする構造の家を作る。建築に足りないところがあれば木の枝や余っている材料を利用するなど実際の建築現場で多くの工夫をする,そうしたものであったのではないか。つまり予算内で建築するために工夫してほしい旨を伝え,7社の施工業者に概算見積書,作業工程表,作業所の体制,および作業所長の経歴の提出を求めた。

こうして,Pet Clinic アニホスビル建築チームは,建築部分を地元の内野建設株式会社,病院設備を日比谷総合設備株式会社の担当とし2004年8月1日に工事を開始した。

3,動物病院作りのコンセプト

ホテルとホスピタルは同じラテン語が語源と聞いている。それは同じ語源でも,健康な人が泊まるところと,病人が訪れるところで大きく違う。本当に人を癒さなくてはならないのは病院であろう。動物病院は動物の治療をするばかりではなく,飼い主の心も癒してこその「真療」であるという思いから,病気のペットを抱える飼い主に,森の中のような豊かな空間を提供することを第一に考え,人や動物に温かく,街に親しみ,温もりを感じさせる建物と「環境に優しい」を合言葉に,自然環境を利用する「森づくり」を目指した。

動物病院は動物が誕生して,命の最後を迎える舞台である。家族へのサービスの提供,悲しみへの配慮という意味でも霊安室は大切にした。

また,障害者や健常者,子供,高齢者にかかわりなく利用しやすさの一歩としてバリアフリー化するとともに,気軽に病院に来られるように車が止めやすい車寄せや雨よけ屋根をつくり,さらに風よけ室を設けてエントランスホールへのワンクッションとした。

東京の池袋から3kmという立地条件から,騒音,臭いや感染,伝染病対策の他に,人間の生活環境とそれに伴う病院のセキュリティにも心を砕いた。建物の構造を利用し,顧客は,エントランスから,エレベーターホール,待合ロビー,そして3階の面会室とトリミング室以外には行けない仕組みとし,他の場所には(スタッフの動線に入るか)誘導された人のみが入れるようにした。そのためにエレベーターも鍵がないと3階以上には行かない設定にした。診察室各所の鍵,受付カウンターのパイプグリル様のシャッターなど閉店後も中を見せるなど,セキュリティを視野に入れた動線計画も有効であった。

クライアントの動線(エレベーター),身体障害者の対応,スタッフの動線を考え,仕事の効率だけではなく,快適性とゆとりを志向した環境作りを意識し,時代が変わっても対応できる,拡張性のある空間を心がけた。中でも飼い主の動線は,待合ホールを中心にし,その回りに受付,薬局,処置室,診察室として,飼い主は動かないでスタッフが動くシステムを取り入れ,飼い主が利用する化粧室環境にも気を配った。受付カウンターと顧客の目線の高さ,受付のコンピュータ化による今後の配線の変化などに対応できるように内部構造を考え,震災時における動物病院の立場を考慮し,被害を最小限に食い止められるビル構造,情報収集や発信が出来るように無線などの設備を用意するなど多くのことについて,一つひとつどのようにするかを模索した。

4,自然環境の利用と外断熱へのこだわり

環境に優しい建物を目指し,自然エネルギーを最大に利用するために,ビルの外側で断熱をすることになった。外断熱といっても断熱材を外側に使用するものではなく,鉄筋コンクリートの建物に外側から箱をすっぽりかぶせるように波打ったコンクリートボードで壁を作り,外壁をつくりにくい各階層の窓には,ペアガラスの内側に障子を入れることで空気層による外断熱効果が出せた。光熱費に関しては,入院動物たちが暖房や冷房に与える影響を考え,一頭が発散する熱量を想像して計算し,冬の暖房費より夏の冷房費用を節約して,夏をうまく越すことが重要である。夏の日中に外が高温でも日除けさえしていれば,屋内は外気より低温になることは周知の事実であるが,外断熱にすることでそれ以上の効果が生まれ,ビル内部のコンクリートは外界の温度にあまり左右されることなく一定の温度に保つことができた。また,冬場は室内の暖かい空気が冷たいコンクリート壁にぶつかることで結露が生じやすいが,これも外断熱によって防げるであろう。

屋上やベランダに降った雨は,その場所に少し貯めて,その気化熱でビルを冷やす効果を出し,それ以上の雨水は地下に大きな貯水槽を設け,雨水を下水に流すことなくその場所に吸収させる設計とした。大雨が降っても次の日には貯水槽内の雨水が空になっていたことから考えても,東京の土地は水を欲しがっているのだろう。

駐車場は水を吸収するアスファルトにし,地中からの気化熱で涼しくすることが出来た。駐車場横には犬の排尿場を設け,排尿後の臭いの問題は,土を利用し臭いを分解吸収させることで解決した。自然の恵みには感動させられる。

快適性とゆとりを志向した環境づくりという意味で,照明,スペース,温熱条件,室内の色彩,音環境,光環境などを考えた。病院の顔である待合ロビースペースは広くゆとりのあるゆったりした空間で,窓を広く取り自然光を入れたが,障子によって柔らかい光と湿度調整,そして遮音効果が発揮でき顧客の居心地のよさに配慮した空間となった。しかし,本物の自然素材を使用する地球に優しい建築は法律で厳しく規制されていた。消防法の内装規定によって加工素材の使用が義務付けられているのである。そこで,院内は禁煙,火を使う場所はすべてIHとし,火種がないようにすることで対応した。

院内換気は24時間換気で温度差を出さない装置とし,待合室や診察室など院内の各所で空気圧を変えた。たとえば,伝染病診察室や入院室,歯科治療室,臭いの強い動物を扱う部屋などは陰圧に,受付周り,手術室や治療室は陽圧にするなどして空気圧差で各場所をコントロールすると共に,高圧電流を流す装置を待合室、処置室、入院室など数多く天井に取り付け、細菌やウイルス,そして臭いのコントロールが出来た。

5,建物,外観や壁へのこだわり

一般に,動物病院の看板を見つけた飼い主が衝動的に来院することはまれであり,普通はその場所に動物病院があることを知っていて訪れる。それは,紹介の新規の顧客でも同様である。そこで建物自体を看板にする目的で,外壁を緑と黄色にした。

1階のエントランスルームには,森の四季の中で楽しそうにしている動物たちをイメージした壁紙を張り,森羅万象と動物病院では生まれてから死ぬまでをケアしているということを表現した。

壁の色は,気分転換とともに初めて来院した人たちが,色で指示されればすぐ分かるようにと配慮して,伝染病診察室や伝染病入院室のドアは赤,お別れ室は紫,3階の床や壁は緑,4階はオレンジ,5階は黄というように,階層を色分けした。

待合ロビーの床は自然界にある淡い緑と土の色,さらに滑りにくい床,そして転倒しても衝撃の少ない材質,コンクリートの四角い柱の角は森をイメージするとともに怪我のないように丸い木材で覆った。

さらに視覚障害者の誘導のため,終点に点字表を備えた点字ブロックを敷設し,身障者駐車場から受付までの床面は目地部がないつくりとした。階段の滑り止めは段の識別がしやすいように目立つ色とつまずきにくい構造にし,手すりと始点,終点を分かりやすくした。通路の幅は車椅子と歩行者がすれ違える寸法に,エレベーター乗降ロビーは車椅子が回転できる構造とし,エレベーター内では車椅子が前進で乗ったまま周りがみえるように鏡を設けた。また,エレベーターのボタンは数字やドアの開閉の印が触るとすぐに分かるように突出したものを採用した。化粧室も,円滑に扉が開閉し,通過でき,介助の人,犬や乳幼児もともに入ることができ,安心して利用できるようにした。

6,実際にそこで仕事をしている感想,得られた結果

旧病院と違い階段スペースや各所に十分な広さの確保ができ,人と人がぶつかりあうことがなくなったのは何よりであった。とくに待合ロビーでは42脚ある椅子をすべて違う色にしたことで楽しさと喜びの声が聞こえてきた。待合ロビーにワックス掛けをしても,人はもちろん犬達も滑ることなく歩くことができ,パドックは屋根をガラス張りにし光と風通しをよくしたので快適なものになった。

受付カウンターの長さは8m準備したがいずれは狭くなることが想像できた。受付内部の床部分は待合フロアーより10cmほど高くしたが,これは旧病院からの伝統で,受付の女性が男性顧客と目の位置が対等にあるように考えた結果であった。

また,処置室,検査室などは特別注文で処置台を作ったが,スタッフから使いやすさで評判がよかった。物置やセミナーや会議ルームのスペースを大きく取ったことでゆとりが生まれた。

7,参考になったと思うもの

建築をすることが決定してから,淵辺 懿先生を代表に各担当の設計者と,横浜市戸塚区の安田修一先生の病院,そして日本大学動物病院の見学ツアーを行い参考とさせていただいた。あまり多くのものを参考にしても迷うだけと考え,また,今までの自分が考えていたことや経験をもとに設計に加わりたいと思っていたので,見学はこの2カ所にしぼった。設計士の先生の考え方が大きく左右することはいうまでもないが,自分達も設計に参加しているという意識が必要であった。自分がどのような動物病院にしたいのかをきちっと設計士に伝えなくては出来上がってから後悔することがあったであろう。動物病院は年月とともに進化していけるようにしなくてはならない。旧病院の経験からよいところを継続し,また,いつでもその時代の変化の波に乗れて進化していけるように,現状のみにターゲットを合わせるだけではなく,将来の必要性を見通して設計することもポイントであった。

Pet Clinic アニホスビル建築中は設計の淵辺 懿先生を中心に,構造や電気設備などの設計者や建築会社,設備会社,現場監督,および職人の代表者などと毎週のように会合を開き,建築の進行状況や内容について綿密に打ち合わせを行っているうちに,心が溶け込み大きなチームワークが出来上がった。そしてその打ち合わせに沿って進行できた結果,大きな建物の割には問題となるものがなかった。これも,設計の淵辺 懿先生曰く「Pet Clinic アニホスの建築に当り,すべてのコンセプトがはじめからしっかりしていたのでそれに沿って竣工できた。」といっておられたので,コンセプトをはじめから打ち出しておいたことが幸いした。

おわりに

建築する場合に,一番先にくるものは借り入れや返済予算であろう。無理のないような借り入れ予算では,もちろん贅沢はできないし,多くの工夫をして予算を節約することが大切である。壁,ドア,看板ひとつも料金につながるので,必要のないところのドアや部屋数を減らし、外壁や駐車場の柱や天井はコンクリートの打ちっぱなし,駐車場はアスファルト,従業員スペースはペンキを塗るだけにしたことでデザインとしても大いに楽しめ,経費の節約にも役立った。年月とともにいろいろと変化や進化をする必要もあり,壁でなくパーティションであればいつでも改装できるメリットがあると考え,スタッフルームはロッカーで仕切るなど節約した。しかし,手術室の陽圧設備やその他の必要な設備には予算を割き,CT室はどうしても必要と考え高額であったがつくることにした。

旧病院で使用していた器具,機材をそのまま利用することには多くのメリットがあった。金銭的リスクが少なくてすみ,スタッフはとてもなじんでいて,説明がなくても始動でき,この病院を何年も使っているような錯覚を覚えるほどであった。スタッフたちの動線の経験から設計の段階で置き場所を決めてあったので,引越しに際しては,その場の指示がなくても図面通りに設置でき,3階パドック横のベランダをクレーンでの作業ができるようにしておいたため,大型乾燥機などもスムーズに搬入できた。また多くの業者の人たちが手伝ってくれたことと,スタッフ達によるしっかりした引越し打ち合わせにより合計3日ですべてが完了した。何にも増して一致協力の賜物である。

今回の経験からも建物はできるだけ余裕のスペースを確保することがよいと考える。また,建築をする人たちが楽しく誇りを持ってできるようなチームを作ったことで心のこもったよりすばらしいものが出来上がった。なにより顧客にも喜びを感じてもらえたと思う。

また,熟練スタッフが中心となり病院の運営における院内システムを作成した。大きく変わったシステムは実際にPet Clinic アニホスの運営によい結果を生み出した。

新動物病院を建築するに当り多くのことを考えなくてはならなかったが,淵辺 懿先生は建物の設計をするだけではなく,私たちの意を汲んで建築すべてのコーディネートも含め,環境に優しい建物づくりに最大の貢献をしてくださった。また,院長だけの建物ではなく,スタッフが自分達のPet Clinic アニホスとして最高のやりがいと夢を感じる新しい動物病院と思ってくれたことが最大の喜びであった。

Pet Clinic アニホスは2005年4月11日の竣工式の後,3日間の引越しにより旧北川動物病院から移転し4月14日から新規開業した。これもスタッフをはじめ多くの皆様の協力による賜物であった。そして多くの方々より,お祝いをいただき感激している。ご協力,ご支援本当にありがとうございました。

 

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