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個人・その他 救急救命療法の考え方 研究者:山村穂積 はじめに 救急医療を必要としている動物は通常とまったく異なった症状・病態で動物病院にかつぎ込まれてくる。これらの動物は病態の経時的変化が早く、いち早く適正・的確に取り扱わないとともすれば命を落とすことになる。したがって救命するには、知識、技術およびモニタリングによる情報をフルに使用することが重要である。 外傷の優先順位 飼い主は交通事故は全て救急扱いをし処置をしてほしいと考える。実際に直ちに処置をしなければ生命の危険があれば、急いで救急治療の行動を取らなくてはならない。またはすぐに生命の危険はなく少しは待てる、外見的には損傷がないなどその外傷を受けたその動物の重傷度、緊急度、あるいは損傷の程度を観察しながら、その状態に応じて治療処置、検査の振り分けを行い優先順序を把握する。 give the VIPTreatment−Navigate−P.S. 生命の危険のある外傷は、時間と共にその病態は変化し心肺停止へと進行し、強いては心肺蘇生を必要とする。この心肺蘇生法として一般に普及している考え方としてA〜Iまで推奨されている。中でもABC(Air way気道確保、Breathing呼吸換気、Circuration循環)で基礎的救命をまず行う。次にDEF(Drugs薬物、ECG心電図監視、Fluid輸液)で回復を目的にし、それとGHI(Gauging評価する、Hopuful見込み、Intensive care集中治療)で維持をさせることが有名である。しかしこれは救急で一番多く遭遇する交通事故などの外傷を主体とした救急療法には当てはまらない部分がある。そこで私は外傷の初期治療として”give theVIPTreatmennt(VIP待遇を与える)”。VIPとはVery Important Person (重要人物)の意味であるが、それを動物医療の立場からVery Imporatnt Pet(最も重要なペット)として取り扱う。そしてVIP後の”Navigate(うまくその状態を乗り切る)”、さらに”P.S.(追伸)”の処置方法による考え方を推奨する。 a)give the VIPTreatment このようにgive the VIPtreatmentの動作扱いを、取りかかれる人(4〜6人が取りかかれると良い)が同時にこれらの操作を分担・担当し救急操作を行うことで救命率を上げる。従って救急動物は、"VIP"であることは勿論のこと、give theVIPTreatmentの治療を遅らせないようにしなくてはならない。酸素吸入、点滴輸液、心電図や血圧計、パルスオコシメーターの取付などをし、大出血があれば止血処置をすることであり、明らかに生命の危険のある外傷で中には心肺機能停止または停止寸前や、そのままでは短時間のうちに心肺機能は停止することがあり早期にしっかりした心肺蘇生法を行うなど治療ができたことにより、救命率の違いがあり、このVIPTreatmentは非常に重要な初期治療である。 b)Navigate c)P.S.(Post-script、追伸) 以上により救急救命医療の考え方を"give theVIPTreatment"を第一のステップとし、第二のステップの"Navigate"の時に多少の時間を必要とし、そして第三のステップの"P.S."で集中的な薬剤治療や外科処置、監視、観察を続けて行うことを治療のアプローチとすることで、ほとんどの外傷による救急状態に対応でき救命率を上げることができる。 操作順序 はじめはV(Ventilate、呼吸器系)の確認 まずはじめに自発呼吸を確認する。自発呼吸がなければもちろんのこと、自発呼吸があっても換気量が少ない場合にはまず気道の確保をし酸素吸入と人工呼吸を行う。救急の場合の気道の確保の代表は、気管内挿管である。意識の無い動物は問題なく気管内挿管し、加圧人工呼吸が出来る。弱い自発呼吸や、呼吸状態が悪く酸素が必要であるのに意識があって口を開かない場合に、無理に気管内挿管をしない。それは手を咬まれたり、気管チューブを噛み切られたり、そればかりではなく嘔吐を起こしそれを誤飲する危険がある。意識がある場合、舌を引っぱり出し、マスクによる酸素吸入や鼻にカテーテルを挿入しそのカテーテルを通しての酸素吸入を行う。舌や粘膜の色が紫色や蒼白になっていて、酸素吸入が必要であるのにマスクをあてると動物がいやがって暴れてしまうことがある。この場合にいやがることにより状態を更に悪くしてしまう場合があるので、マスクをあてることを強行しない。猫や小型犬では処置台の上で移動かごに入れ大きなビニール袋を利用し、かごごと包み酸素を多量に吹き込むようにする。または酸素の吹き出し口を鼻先や口のそばに持っていき吸入させるがこの時には、その効果を良く観察する。 I(Infuse)輸液(泌尿器系)を行うために静脈留置 静脈内に輸液を行うために留置針を取り付け、直ちに輸液を開始する。そして全身の循環血液量が十分であるかどうかを考える。通常は乳酸加リンゲル液を輸液するが、輸血の代用にはならないことを頭に入れておく。冷たい輸液を静脈内に注入すると、体温の急激な低下を起こさせてしまうので、治療に使用する乳酸加リンゲル液はいつでもインキュベーターに入れて暖めておく必要がある。また、留置針を取り付けたときには必ず少しの血液を採取し、検査に回しておく。失血後のヘマトクリット値は、十分な時間が経って血管外より体液で血液が充填され、代償的な血液希釈が起こっていなければ、その数値はあてにならない。血圧は80〜60mmHg以下になると尿産生は低下するとされ、時間の経過と共に腎不全となる可能性が大きいので、点滴輸液量を増加させる。そして、尿量と輸液量と比較しながら輸液量が過剰にならないように投与を検討をする。しかし全ての動物に輸液を維持するとは限らない。例えばうっ血性心不全を併発している場合や、呼吸障害のある動物には「輸液のチャレンジ」特に過剰な輸液治療は急性肺水腫になり更に危険な状態になることがあるかも知れない。そのようなことが考えられたら、静脈針の留置後、出来るだけゆっくりした輸液にとどめて様子を見る。血管内の血液量を増やさなくてはならないと判断し、輸液を開始した場合には、輸液による急性肺水腫を防ぐことが出来れば、致命的な呼吸不全を防止することが出来る。これは輸液量や速度に注意を払う。この輸液による急性肺水腫はわかりにくい場合が多いので、これを予防するには中心静脈圧(CVP)の測定が必要である。これは心臓の予備力の限界を知り、臨床的な輸液の指標として役に立つ。たとえば、循環血液量減少では下降し、心ポンプ機能低下では上昇する。 P(Pump)ポンプ(心循環器系)の監視をする 心臓のポンプ能力を視るには、心電図をモニターしたり記録をする。また血圧の測定やパルスオキシメーターの取り付けることも重要である。この時の心電図誘導は、いち早く取り付け、QRSがほぼ正常のような波形をし心停止に移行するようなP波やQRSの変化が判ればモニターの役目は十分にある。必要なことは来院時にすでに心臓が停止している場合の確認、不整脈やST下降、QRSの延長、心室細動、心室粗動、洞停止および極端な徐脈や頻脈など重要な変化を区別する。特に重要なことは心臓が止まりかけていたり心停止している場合、すなわち心肺機能停止を速やかに診断する。心肺機能停止動物では直ちに心肺蘇生法を開始する。加圧呼吸と同時に胸骨圧迫による心臓マッサージを行い、心臓の調律を正常にする必要がある。また、突然に心室細動や、心室頻拍に陥った場合には、握りこぶしを作り、30〜40cmの高さから、動物の心臓中央部に一撃を加える。この操作を一回行い効果をみた結果により、胸骨圧迫心マッサージに移る。この心臓マッサージは経験がないとうまくマッサージ出来ない。小型犬では人差指と中指の2本で心臓部を軽く圧迫するか、手のひらの中に胸を挟み、親指で圧迫する。犬が大型になるにしたがい片手の手のひらの根元で圧迫する。大型犬では手のひらを重ねて同様に行う。通常は心臓マッサージを5回行い、1回の人工呼吸をする。血圧やその他のモニターを監視しながら心肺蘇生を行う。もう一方では輸液(とにかく乳酸加リンゲル液)を点滴する。心調律が出るまで心マッサージを続ける。その心臓マッサージの経過によりアドレナリン(ボスミン)やドパミン(ドブトレックス)などの薬剤処置をする。血圧値を維持できるように心臓マッサージや輸液速度を考える。しかし、心マッサージにより血圧値が維持されていても、心電図との比較が重要である。実際に心電図上では死亡していてもダイナマップによる血圧値やSpO2が正常値であることがある。また、心臓の監視のみに気をとられていると、胸腔内出血や体内のどこか大血管からの出血を見逃してしまうので注意が必要でる。 Treatment(止血を始めとする救命に必要な処置) 呼吸状態がだんだんに悪くなっていく場合には、胸部の外傷があると思って良い。もしも胸部に開放創のような傷があり、空気が吸入されるような場合には、開放創の周りの毛を刈り、抗生剤などの軟膏を塗りつけたサランラップをその開放創に当てて、とりあえず空気がその部位から漏れないようにする。 Navigate(Nerves system、Need)神経系の検査、その他見落としが無いようにする この段階で神経検査を始めとし見落としが無いようによく診察をする。その結果、命を脅かす4つの病態(呼吸器系、泌尿器系、心循環器系、および神経系)と全身状態の把握をする事が出来る。体重、呼吸、脈拍、血圧、体温測定や、意識、粘膜の色、眼症状などの見落としが無いようにする。そして外傷の診断は、頭部、胸部、腹部、四肢骨盤の4部位に分け観察する必要がある。 P(Pharmacologic)その後必要とされる薬剤投与 ショックの状態が取れていない、どこかにまだ出血があるなど、状態にあわせた薬剤投与を考え、全身状態の改善に努める。もちろん持続的酸素吸入は行う。口腔粘膜蒼白、倒れている、周りへの反応がない、全身的に冷たいなどの臨床症状、または頻脈、低体温、血圧低下、脈の微弱、尿量減少、CRTの延長などの状態はショックが持続しているのでさらなる治療が必要である。 S(Special care、Surgical management)特別の注意と外科処置 集中治療を開始し、常に観察が出来る状態にし、十分な看護をすると共に、頭部、脊髄、胸部、腹部、肝、膀胱、尿管、腎、その他などの損傷の確認と必要とされる処置を行う。胸部の外傷の診断にはレントゲンが役に立つ。気胸や血胸が疑われたら、22G位の針や留置針を第8〜10肋骨中央部よりやや背側の肋骨のすぐ前方に入れ吸引する。空気が出てきたら気胸が、血液が得られたならば血胸が確信できる。中には両方のこともある。胸腔内の血液は太い留置針やカテーテルのようなものでドレナージする。この操作は気胸や血胸の無い場合に行ってもそれほどの障害にならないので、疑いが持たれたら挿入して吸引してみる。人工呼吸を施すことにより胸腔内より持続的に血液が吸引される場合や、空気の増量が起こるようであれば、肺血管や実質の損傷があり直ちに麻酔をして開胸処置をしなければいずれは死亡する。 まとめ ● 救急医療を何かに例えるならば、病院や設備は自動車である。軽自動車もあれば高級乗用車もある。車の運転手はあなたであり、目的に向かっていく間に事故や渋滞やいろいろの事態に遭遇することがある。このことを切り抜けるために回り道をすることもある。運転技術は人様々で、目的のところに行く道もその人の好みの道がある。その道も通るたびに全てが同じではない。自動車はスピードメーターとガソリンメーターがあれば目的に向かって走って行くことが出来る。しかしメーター類などが多くナビゲーターシステムまでも搭載しているような装備の良いほうが何かの時に安心して運転できる。すなわち、車、運転手、搭乗者、道、環境、天気、気候など車を運転するということはそれらを取り囲む一つ一つの因子が関係する。 ● 救急を扱うにはすべての救急処置および外傷など、救急医療に必要な基本手技を始め、あらゆる種類の管理が出来るように熟練するように努力し、スタッフの訓練を行う。そして救急医療にいつでも対処できるように以前に使用した器具や薬品は補充し装備しておく。救急動物が来たら、それはVIPであり、何をしていてもすぐに外傷の重症度に応じて分類、評価し敏速な対応と処置にかかる。 ● 外傷によるショック動物は、まず循環器系薬剤の投与を行うとすぐに治療効果が現れてよいようにみえるが、実際には安全な方法ではない。やはり、give theVIP Treatment(呼吸管理、輸液維持、循環監視、止血)をきちっと行うべきである。VIPTreatmentは多少余分な時間を費やすが、最終的には救命率が高い。 ● "give theVIPTreatmennt"後に"Navigate"を行うことで、生命を脅かす呼吸器系、泌尿器系、心循環器系、神経系の4つの病態が把握出来、全身状態の見落としが無いようにできる。 ● "PS"で、その後に必要とされる薬剤処置や酸素吸入、集中治療と外科処置を行い、明らかでない外傷にも注意し、出血が想像されるがはっきりしない場合などは胸腔穿刺や腹腔穿刺、場合により腹腔洗浄を行い損傷を調べ、また膀胱破裂なども調べることが大切である。このときレントゲン検査の併用は非常に役立つ。また救急動物は、その全身状態は急速に変化するので、十分なモニターリングによる情報を必要とし、時間的変化によるその情報を常に把握する必要がある。この手順で行うことは、さらに救命率が高くなる。 ● もちろん救急の目的は疾病の診断をすることではないことから、必要とする検査装置や器具の組み合わせは、個人的にも、または病院として選択し統一しておく。また、これはスタッフが同じ解釈と同じ治療指針で行うことができるようにする。そしてこれには飼い主への十分な対応を行い、現在この動物の生命の危ぶまれること、生命を保つためいろいろの処置や外科手術を行うことなど理解を求める。しかし問題となることは死亡した場合である。これは、飼い主がその動物の重篤度の理解がされていない。飼い主の想像していた支払金額をはるかに上まった処置や手術が行われた。飼い主の救急度合いに対する理解度の悪さや違いなどで問題となる可能性がある。 ● 救急医療は、始めの数秒の処置の遅れや違いで生死が分かれる。救急動物が私たちの行った処置により救命できたとすれば、このことはとてもやりがいが感じられる。いずれにしても救急医療は、内科でも外科でもなく、あらゆる症状・病態をもつ動物である。これら一つ一つの症例がその時々で違い、救急医療の何かを教えてくれる。まさに獣医臨床の知識、技術の上に成り立ち、私達の師である。今回は、重篤な外傷を受けた動物の初期治療の手順や考え方を解説したにすぎず、実際にはその1頭1頭の師に教わりながら、First aidをすることにより救命技術を上達させるということであろう。
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