院内日誌
あきらめなかった前足
馬場幸一(1999年4月11日)
木枯らしの吹く頃、クリスちゃんという13歳の犬が、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、妹さんの家族4人に連れられて当院にやってきました。お外は寒いので毛布に包まれ暖かくしている様子は、大切な家族の一員であることは誰の目でも同じに見えたと思います。診察室に入り、一見元気そうなクリスちゃん。どこが悪いのかな?と思うと、なんと!右前足が怪我が原因でひどくうんで腐っているのでした。 ほかの動物病院で診察してもらいましたが、怪我がひどく傷口から細菌感染を起こし、命を落とすこともあり、右足を切ることもやむを得ないといわれたそうです。家族としてみれば13歳になり最近全身がよろよろしてきて、歳をとってきたことが感じられているのに、それに加え前足も一つなくなってしまったら...。何日も家族全員がその足のことで憂鬱な毎日を送り、クリスちゃんの命を助けるためには本当に足を切るしか方法はないのか?。毎日が家族会議。そこで決定されたことが、もう一度違う病院で診察してもらうことになり当院にやってきたとのことでした。 診察ではクリスちゃんの傷口は臭いがひどく、いわゆる腐った状態でした。筋肉は通常では赤くなければいけないのにそれが灰色でした。どの先生もこの状態では足を切断することを考えました。しかし、なんとか足を切らないでほしいという家族の方の悲願に胸を打たれ、最大の知恵と努力をして私たちの病院でできるかぎりのことをしてみようという決心から、足を切断しないで治療をとりあえず行ってみることにしました。まずは腐った部分を取り除くことからはじめました。細くなった前足の神経や血管など取り除いていけないものを細かく慎重にふるい分けして、切除できる部分は切除しましたが、この作業を何度も行わなくては無理なことでした。 お父さん、お母さん、お姉ちゃん、妹さんみんなが毎日毎日交代で治療に通いました。しかし、毎日の治療でもきれいな赤い筋肉は見えず、普通の足の1/3以下の太さとなってしまい、やはりこの足はあきらめなければならないのであろうか。私たちの治療が悪いのか、少しずつ悲観的になってきたと同時に家族と共に悩む日々が続きました。数日経過後の治療の時、感激が怒りました。ありました!きれいな赤い筋肉が!。この赤い筋肉を見て急に希望が見えてきました。それから長い治療と長い月日がたちました。クリスマス、お正月を迎え、梅のつぼみが見えだした頃やっと足の皮膚もできあがり、従って4本の足で歩くことが出来る様になりました。傷跡はいまも残っています。この傷跡を見るたびに、どうしても右足を切りたくないという執念とどんなに寒く辛くても毎日通い続けた努力に家族の深い愛情を思い出させます。この奇跡とも思えるクリスちゃんの足。家族の願いが神様に届いたのでしょうか?そういえば名前がクリスチャンでしたね。