院内日誌
恐ろしい猫伝染性腹膜炎
浅沼秀樹(1998年9月29日)
まだ生後3〜4ヶ月ぐらいのプリンちやんという子猫が来院しました。「数日前から下痢がひどく、元気も食欲もなく、一向に改善する様子もありません。このごろどんどん衰弱していきます。」と、飼い主さんは非常に心配していました。一通りのお話を聞いて、プリンちゃんの様子を見ると、重度の脱水と貧血を呈していました。 このような状態になるのはいろいろな原因がありますが、まず一般状態(食欲、元気および脱水)を回復させるために点滴が必要です。原因が何であるかを調べるための詳しい検査は、状態が少しでも改善してから行うということでこの日から入院となりました。数日後、少し元気が出てきたところで猫の伝染病の検査を行いました。猫の伝染病は、恐ろしいものが多く、陽性の結果(感染しているということ)が出ないことを心から祈っていました。ところが検査の結果は、「FIP(猫伝染性腹膜炎)の可能性が高い。」とのことでした。この病気は猫の伝染病の中で最も治療が困難なものの一つであり、未だにワクチンすら開発されていません。 また、この病気はウイルスが原因となるのですが、通常、感染していてもなかなか発症しません。しかし、ひとたび発症すれば、直接死につながる恐ろしい病気なのです。この検査結果を聞いたとき、我々獣医師は強いショックを受けました。しかし、この結果を聞く飼い主さんの気持ちはそれ以上のものであり、そのショックの強さは計り知れません。結局、プリンちゃんにできることはやってあげたい、という飼い主さんの希望もあり、またこの日から新たな戦いが始まりました・・・ ここ数年、衛生環境の向上や飼い主さんの動物に対する意識の向上、さらにはワクチンなどの予防技術の発達に伴い、伝染病の発生が急速に減少しています。しかし、FIPやFIV(猫エイズ)など、予防も治療も困難な病気がまだまだ存在します。また、ワクチンや予防法が確立している病気でも、それを怠ったために命を奪われてしまう動物もたくさんいます。なぜこんな病気が存在するのか? なぜ命を奪わなければならないのか? 病気と医療の戦いに終わりはないですが、あきらめてしまえばそれで負けになってしまいます。我々も一生戦い続けなければならないことを強く心に刻みました。