院内日誌
管を入れるのはかわいそう
佐古絵理(1998年8月5日)
点滴をすすめると、飼主さんはいつもそう言って首を横に振っていました。 その猫ちゃんは、ごはんを食べなくなったということで来院しました。血液検査をしてみると、腎不全になっていることがわかりました。腎不全はおとしよりの猫にはとても多い病気です。腎臓はからだ中から血液内に排出された老廃物を、尿の中に漉し出す大事な器官です。しかし、人造の場合、いったん悪くなってしまった部分は、二度と回復しません。腎不全になると残り少ない人造の正常な部分だけで老廃物を漉し出さなくてはなりません。動物は、水をたくさん飲んでおしっこをたくさん出すことで、なんとか老廃物を出しきろうとします。ところがそれが追いつかなくなり、からだの中に老廃物がたまると、吐き気がしたり口内炎になったり食欲が落ちたりするのです。そうなると水を飲むだけでなく、血管に直接水分を入れることで、尿をたくさん出してもらう必要があるのです。そのための点滴を、ということだったのです。 点滴をするためには、四肢のどこかの血管に管を入れる必要があります。その管を入れることがかわいそうで嫌だとおっしゃるのです。 とはいえ、獣医師がいくら説明しても、心情的には納得がいかないもののようで、血管に管を入れたり入院して離れ離れになるのは、猫を可愛がっていればこそ、なかなか踏み切れないことなのでしょう。代替案として、栄養価の高い食事を毎日強制的に食べさせたり、ときどき皮下点滴のために来院したりという飼主さんの努力が続きましたが、一向に良くならない状態が続き、とうとう飼主さんは3日間だけという条件付きで点滴入院する決心をしました。 結局5日間に延長して頂いて点滴をしたのですが、それまでまったく自分では食べてくれなかった猫ちゃんが、最後の日には以前好きだったドライフードをほんの少し食べてくれるようになりました。退院後、元気が出てきたのを見て飼主さんも喜んでいました。目に見える効果があらわれたのですから。 その数週間後、また元気がなくなってきたとのことで、再び5日間の点滴をすることになりました。今度は家でも、自分から少しごはんを食べてくれるようになったそうです。元気になった姿をみて、そんなに調子が悪くなくても毎月定期的に点滴入院させよう、と飼主さんは決心したようでした。 動物病院は動物にとってはいやなことばかりです。がまんしてもらうことも少なくありません。でもその分、いえその何倍ものメリットがあるからこそ、入院やつらい治療をお勧めするのです。時には、耳に痛いことも言わなければならないことがあります。日にたくさんの動物が来院し、私たちはそのそれぞれを診察し、治療します。けれども、できるだけのことをしてあげたい、治してあげたいという気持ちに分け隔てはなく、いつもそのための最善をさがしているという自負があります。だからこそ、治療の効果が現れ、動物はもちろん、その具合の悪い様子を見て落ち込んでいた飼主さんに少しでも元気になってもらえると、私たちはとても嬉しく思います。