院内日誌
猫とネズミ
院長 山村穂積(1998年2月4日)
「猫がいるのに、ネズミが時々天井裏で運動会をします。猫をどのように教育すればネズミを追い払うことが出来ますか。猫は天井を見上げるだけで、鳴きはしません」というような質問を多く受けます。これも悩める飼い主としては重要な問題です。 「はっきりいって、猫はあまり人の役に立つ動物ではないが、しかし誰もが知っているようにネズミを捕ってくれるので助かるよ。」昔から、こういう意見をよく耳にします。ただこれにしてもだいぶ大げさにいわれているところがあります。歴史上、猫は、犬や馬、牛のように人間のために仕事をするように訓練されることもなかったし、また豚や鶏のように食用にされるために品種改良されることもありませんでした。それでいて古代からいつも人間のそばにいたのです。古くは、エジプトの古王国時代の猫の置物が出土しています。これが人間と猫の関わりの形であるわけですが、そもそも、猫と人間の関係はあまりべったりとしたものではなく、猫は人間の家の内外を好きなように出入りしている行動がいまも続いています。そして肝心なことは、野良猫でも十分生活が出来るということです。食べ物の獲得では人間にあまり世話になることがなく、生きるためには狩りをします。その狩りの獲物として、家の周りにいるネズミを食べることで満足をしているのです。 一方で、猫が猫世界のことを教わるのは、子猫の時期にしかありません。最初は母親の乳を吸って大きくなり、その後、離乳の時に母親が巣に持って帰る固形食を食べます。このころ子猫たちは探索行動を盛んに行って自立する行動をみせ、生後3ヶ月くらいでハンターとして独りでやっていけるようになります。しかし、最近の猫は、母親の猫の世話より人間の世話を受けて大きくなり、まして親猫も食住ことたりて、ハンティングをしたことがない場合が多いのです。食餌は時間になると自然とでてきます。もしもお腹が空けばニャーと鳴けば良いわけです。ということはハンティング行動を教わるチャンスが無くなってしまったわけです。環境に非常に順応しやすい猫は、家の中から一歩もでたことが無いと外にでることを怖がり、また、狩りをしたことがなければ、ネズミをみて逃げてしまう可能性もあります。もともとハンターとしての素質を持っているわけですので、複数の猫がいて、その中にハンターがいれば真似をすることもあるでしょう。でも一匹で飼われ、家から外にでなければ、ハンターの素質を引っぱり出し磨いてあげることは出来ないでしょう。その猫には、ハンターになるチャンスは巡ってこないのです。 我が家にも2匹の猫がいますが、ネズミは捕りません。半年から一年間隔でネズミ駆除会社にお願いして駆除をしていますが、ネズミが天井裏で運動会をしていても、その音を目で追う程度です。天井裏に猫を放そうかと思ったこともあるのですが、もしもネズミに顔でも噛まれたらかわいそうですので止めています。 もしも猫にネズミを捕る教育をするのでしたら、猫にそのネズミを捕らえるハンター行動を飼い主が見せないと無理でしょう。とは言うものの、いつもおいしいキャットフードでお腹のいっぱいな猫から見れば、ネズミなんて私に関係ないわというような顔をして、この飼い主は何をしているのだろう、変な行動をする飼い主だと怪訝に思うくらいでしょう。ということで、残念ですが犬のように猫を訓練することは出来ないようです。悩める飼い主の一人として、もっと悩んでもしもいい方法が見つかりましたら私にも教えてください。その様なことで悩んだことのある飼い主は私を含めて多いのではないでしょうか。もちろん私は私の家の猫がハンターになることはあきらめていますが。