院内日誌
腐る犬
岡本五月樹(1996年12月6日)
電話で往診の依頼を受けました。「10歳を越えた老犬でだいぶ前から立つこともできず、夜中に鳴くこともしばしば。10日程前より便も尿もしていないようだし、ここ数日で食欲もなくなったのでみてほしい。」とのこと。排尿については「おや?」と思いつつも私は老衰の二文字を思い浮かべながら病院をでました。 果たして電話の犬はいました。犬小屋から上半身だけ出して伏せています。確かに元気はありません。同時に鼻をつく臭いと周囲に飛び交うハエの多さが気になります。立たせようと胸の下に手を差し入れると、ぬるっとした異様な感触がありました。よく見るとお腹が大きすぎて入り口からは出れなそうです。しかたなく犬小屋を分解して広げた段ボールの上にその犬を滑り出させると・・・・・・・・便と尿にまみれた下半身に数え切れないほどのウジがわいていたのです。おそらくは腹水でしょう、お腹は異常にふくれ大きな腫りゅうも出来てます。この犬が立てないのは苦しいからで、夜な夜な鳴くのはウジに体を蝕まれる苦痛からなのでした。 結果として、この犬は病院で安楽死となりました。飼い主はフィラリア予防はもちろん散歩もさせていませんでした。それどころか、もうこの次に飼う犬の話をしていました。私には理解不能です。犬猫は丸二日排尿できなかったら命取りになります。また常に尿が体に付着したままでは容易に化膿を起こしてしまうし、そこはハエが卵を産みつけるのに適した場所となってしまいます。 あの犬は本当に本当に苦しそうでした。もう二度とこんな往診はありませんようにと心から祈っています。