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院内日誌

あの“目”

橋本志津(1996年11月29日)

 先日、頸椎の脱臼で寝たきりになったポメラニアンの、レーザー治療を行っていました。レーザー治療は時間がかかり、その間飼い主さんとゆっくり話をする機会がありました。
 私は、飼い主さんに質問しました。「寝たきりになっておしもの世話が大変ではないですか?」すると飼い主さんはこうおっしゃいました。
「少々動いて糞や尿をまき散らすよりずっと楽です。それどころか、この子がこうなってしまってかわいそうには思っても、私がつらいと思ったことは一つもないです。家庭の中で暮らしているのですから、危険な目に会うこともありません。けれども、1年前のある日、この子が突然こうなってしまったとき、苦しそうで、悲しそうで、でもどうしてやることも出来なくて。これが獣医さんに見せるべき症状かどうかもわからず、困り果てました。でもその時この子の目は必死に私を見すえて、助けを求めているのがよくわかりました。この子は、私がこの子にとって悪いことは一つもしない、悪いようにはしないということが良くわかっているのです。私を信頼していることがわかったとき、この子に至上の愛を感じたのです。」きっと飼い主さんはこの子の命が短いものでも、最後まで努力されるのでしょう。
 私はふと、高校一年の秋に、ほとんど寝たきりの祖母のベットの下に迷い込んだ白い猫のことを思い出しました。その猫は脱水症状がひどく、とてもやせていました。治療の甲斐なく、1週間後にその猫はビニール袋を吐いて死んでいきました。ノラ猫で、私を信用しようという態度を一つも見せませんでした。それでも死に際には、ひざの上に乗るようにまでなっていたのでした。
 このような仕事をしているので、犬や猫に嫌われるのには馴れています。病気を治そうという気持ちも当たり前になっています。この飼い主さんは、私の初心、そして動物が人を信頼するあの「目」のことを思い出させてくれました。


 

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