院内日誌
うちのくうちゃん20才
橋本志津(2003年9月30日)
くうちゃんは、雌ネコで御年20歳、立派なおばあちゃんネコです。彼女の一日は、毎朝5時30分、おたけびのように大きな声で10回ほど叫ぶことから始まります。その意味は、あるような、ないような・・・・・。私は寝ぼけてフラフラしながら彼女のもとに駆けつけ、彼女を撫でながら言います。「ここにいるよ。どうしたの。」かけた言葉の意味もまた、あるような、ないような。 ときにこのおたけびは、「ご飯食べるよー。」にも聞こえるし、「おしっこしたよー。」にも聞こえます。全てに意味はないようにも思えます。いいえ、くうちゃんの心の叫び(勝手にそう思っている)が私に届いていれば、それでいいの。10回の叫びが、私が撫でれば3回になる。それでいいの。この叫び声があがるときの無意味そうなお互いの行動は、お互いの信頼関係につながっているのでしょうか。まあ、無意味でもいい、こうやってお互いの目を見詰め合う時間がこれからもたくさんあれば。 このような彼女の「ボケ」症状は、18歳ころから認められるようになりました。症状は他にもあります。深刻なものから順番に、全身性のけいれん様発作、小刻みな部分発作、不適切な場所での排尿および排便、便をお尻につけて歩く(うまく便が切れない)、過食などです。それでも、お友達のAさんの家の19歳おじいちゃんネコのように、2日おきに浣腸をしているとか、いわゆる家庭での「処置」は施していません。 近年、ネコの寿命は飛躍的に延びていると感じています。仕事がら15歳以上のネコに会うことや治療を行う機会がたくさんあります。ひと昔まえに比べると、こと細かに年齢に対応したフードが研究・開発されているからでしょうか。このような中で、飼い主様からの治療に対する要求や質問、困っていることに対しての相談内容はさまざまです。上記のような「ボケ」様症状について、飼い主様と意見を交えたり、込み上げる感情を同じくする機会がふえました。また、ネコの高齢化に伴い、中年齢から老齢までの疾病はその種類さえ変わってきている部分があるように思います。これからは人間のみならず、イヌやネコにおいても高齢化は深刻な問題となってくることでしょう。 23歳のネコを飼っているMさんは、「ネコの長寿の秘訣は?」という私の質問に対して、「とにかく一緒にいる時間を長くすること」とおっしゃいました。仕事をしているとき、くうちゃんのことを忘れて大いに働く私は、これを聞いて本当に落ち込んでしまいました。しかし、今私が彼女にできることは、獣医師としての治療ではなく、家族としてありのままを受け入れて一緒に生きていくことなのではないかと考えています。