院内日誌
眼と心の傷
浅沼秀樹(2000年10月19日)
「散歩中に犬同士がケンカして目玉が飛び出てしまいました!!」、先日朝早くかかってきた電話で、飼い主さんもあわてている様子がうかがえました。しばらくして来院すると、確かに右の目の玉が完全に飛び出てきており、しかも、残念ながら手術しても元に戻らない状態でした。犬種はシーズーで、このような事故は他の犬種に比べ多く発生し易いのですが、もちろん普通の生活をしていればこのようなことにはなりません。今回の事故は、ワンちゃん同士がケンカをして不幸にもシーズーがケガをしてしまったということでした。手術が終了し、しばらくしてからシーズーの飼い主さんから電話がかかってきて、ワンちゃんの手術後の様子とその後の経過のことについてお話ししました。「相手のわんちゃんとケンカをしてこのようになったので、その飼い主さんともお話ししたいのですが・・」、このお話を聞いてとても困惑しました。なぜなら私たち動物病院は病気やケガの治療は出来ても、飼い主さん同士のお話し合いに立ち会ったりすることはその現場にいないのでできないのです。また、実際病院にいらしたときのケガの状態を観察することは出来ても、そこから以前に何が起きたのかを推測することはできません。というより、実際には飼い主さんのお話を聞いて、それを参考に推測することは出来ても、それはあくまでも推測であり、それが事実であるかどうかはわかりません。でも、このことでワンちゃんだけでなく飼い主さんにも大きな心の傷が付いたことは想像できました。それと同時に、その心の傷を治すことはわたくしには出来ないような気がしました。ただできることはわんちゃんが早く元気になってお家に帰れるようにすること、そしてその後も元気であるように祈ることだけです。こういう場合、元気になって帰っても、本当の意味で元通りになるにはしばらく時間がかかると思うと、私たちの無力さを感じずにはいられませんでした。 交通事故、薬物による中毒、直接的な暴力、建物から転落そして散歩中の他のワンちゃんとのトラブルなど、都会ではワンちゃんやネコちゃんがケガをする危険が多くあります。でも、そのほとんどは飼い主さんがきっちりと管理することで防ぐことができます。「できるだけ自由にしてあげたい」とおっしゃる飼い主さんも多いですが、それがどれほどの危険性を生み出すのか、またその結果、動物だけでなく、人にも大きな心の傷を生む場合があるということも理解していただきたいと思います。