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やどり木カンファレンス

皮膚型肥満細胞腫をみとめた犬の1例

2008年5月

山田藍

【はじめに】

 肥満細胞腫は、イヌでもっとも一般的に見られる腫瘍であり、すべての皮膚腫瘍の16~21%を占める。 一般的には高齢の犬で発症し、予後は約半年程度であるが、その腫瘍の組織学的グレードによって大きく左右される。好発犬種はボクサー・ボストンテリア・ラブラドールレトリバーなどである。
 今回、来院時にすでに高グレードの皮膚型肥満細胞腫であった犬の症例に遭遇したため、その治療経過についての概要を報告する。

【症例】

 症例は、柴犬(未避妊雌、10歳齢)でownerの都合により転院した。来院時には体重8.88kg、体温35.0℃、可視粘膜蒼白、右前肢に腫瘍物が認められ、その自壊および出血が著しく、一般状態は極めて悪かった。来院時CBCではWBC 524×102μl、RBC 298×104μl、PCV 25%と貧血も認められ、黄疸も伴っていた。
本症例は転院前の病院にて細胞診およびが行われており、来院日の半年前にはすでに肥満細胞腫との確定診断がなされていたため、右前肢の皮膚型肥満細胞腫stageⅣと仮診断し、それに準じた治療を行った。

【治療経過】

 dexamethasone 0.2mg/kg i.v. アミノペニシリン及びヘパリン0.2mg/kg s.c.を行った。持続的静脈点滴にはヴィーンにZantac、トランサミン、アドナを混和した。
第5病日には食欲が増加し、第13病日にはprednisolone 0.5mg/kg、ペリアクチンおよびZantac 4mg/kg、aminopenicillin 15mg/kg、ダーゼン 15mg/kgを内服に切り替えた。
 その後定期的な傷の治療と内服を行い、良好な経過を経ていたが第37病日に肥満細胞腫の再発が認められたため、c-kit遺伝子検査を行ったが、その結果は陰性であった。その後第47病日には開放型子宮蓄膿症を併発したため、ステロイドの投与を休止した。翌第48病日に卵巣子宮摘出術を行った。第50病日には肥満細胞腫が同患肢の広範囲に確認されたため、ステロイドを同量で再開した。
 第68病日に、化学療法としてvinblastine 2mg/m2 i.v. およびPSL 2mg/kg SIDを行うが4日後の第72病日に腫瘍の著しい増大が見られたため、第75病日にロムスチン50mg/m2p.o.をおこなった。同日には患肢側体幹部の頚部から鼡径部にかけて著しい浮腫が認められ、体重も9.46kgと増加していた。あわせてPSL量を0.9mg/kgに増加した。その後も腫瘍の増大は止まらず第90病日には腫瘍の自潰が再び始り、RBC 263×104μl、PCV 19%と貧血を伴っていた。その後は3日おきの保護の巻き替えと点滴を行っていたが、第118病日に死亡した。

【考察】

 本症例はownerが、化学療法や外科に対して不安を持っておられたためになかなか実施の了承が得られなかった。来院時黄疸が認められたことから、すでに肝臓への転移を伴うような高グレードと予想され初診時の一般状態では内科的治療が選択されるべきであるが、特に寛解が見られた第30病日ころに外科手術、患肢の断脚を行っていたら患者のQOLが大きく変わっていた可能性が予想される。 MCTは悪性腫瘍でありそのグレードにより予後が大きく異なるために早い段階の治療が必要である。自身の治療第1選択が外科であるため、初めのインフォームが重要になってくる。
 本症例は患肢部の自潰が著しい時の方が一般状態が良かった様な印象を受けた。そのことから、自潰による炎症反応が著しい事によって腫瘍細胞も併せて炎症細胞の攻撃を受けたために、一般状態の安定化が得られた可能性もあげられる。
転院前から約半年もの長きにわたりステロイド療法を実施していたために、ステロイドへの耐性獲得および多剤耐性獲得も伴っていたためにVBLで著しい効果が見られなかったものと考えられる。そこでアルキル化剤であるCCNUを用いたところ、約15日間の小康状態を保つことができた。 このように、長期にわたるステロイド療法を行っている場合には多剤耐性を獲得しやすい可能性を考えながら、治療薬を選択するべきである。
 最後に、本症例は未避妊メスであり、長期のステロイド投与などから子宮蓄膿症になり、途中でPSLを休止せざるをえなかったこと、また、麻酔の刺激により腫瘍増大の後押しをしてしまった可能性が考えられるため、早期の避妊手術の必要性をあらためて認識させられる症例であった。

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