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やどり木カンファレンス
副腎皮質ステロイド減量困難な炎症性腸疾患(IBD)のイヌの2例
2008年4月
遠山伸夫、長澤昭範
【はじめに】
炎症性腸疾患(以下IBD)とは、胃、小腸、および大腸における炎症細胞の浸潤を特徴とし、慢性の消化器症状を引き起こす原因不明の症候群である。イヌやネコではいまだ十分に確立されていない症候群であり、その病態には不明な点が多い。
今回、臨床症状、除外診断、病理組織検査、治療の反応性などの所見を総合して、IBDと診断したイヌ2例について、副腎皮質ステロイドに対する反応は比較的良好なものの、減量が困難であったため、ステロイド以外の免疫抑制剤や抗炎症剤の投与による治療効果を検討した。
【症例】
症例1:ワイヤーフォックス・テリア 5歳齢 オス 毎年ワクチン接種
頻回の嘔吐、流涎、元気消失を主訴に来院。初診時(第1病日)、一般身体検査は異常なく、X線所見としては胃・盲腸にガス貯留所見が認められた。第2病日にバリウム造影を行い、異物を疑い得るバリウムの停滞所見が認められたため、同日に内視鏡検査を行い、胃の幽門部粘膜における浮腫・十二指腸粘膜の不整、浮腫所見が認められた。しかし、同部位から採取した検体を病理組織検査した結果、明らかな異常は存在しなかった。また、内視鏡において異物は認められなかった。第145病日に、透視下における食道バリウム造影を行うが、食道の拡張などの所見は否定的であった。第174病日にTLI値の測定を行ったところ、正常範囲内であったため、膵炎は否定的であった。第240病日に上診した日本大学動物病院において行われた上部消化器内視鏡検査では、十二指腸において重度の炎症所見があり、幽門の開放状態が確認された。また、十二指腸粘膜のバイオプシーで採取した検体の病理組織検査では好酸球性小腸炎と診断され、IBDと診断した。対症療法として、抗生剤と制吐剤を投与するも症状の一定した改善は認められなかったが、副腎皮質ステロイドの追加投与により、用量依存性に嘔吐などの消化器症状の改善が認められた。
症例2:
ミニチュア・ダックス 13歳齢 オス 既往歴・直腸粘膜における炎症性ポリープ
数年前からの慢性の大腸性下痢(しぶりを伴う血便、粘液便)があり、診断的治療として、低アレルギー食への食餌変更、抗生剤・ステロイド・整腸剤の内服を行い、症状の緩和が認められていた。しかし、元気の低下、排便時のしぶり、排便頻度の増加、血様下痢を主訴に来院(第1病日)。一般身体検査、糞便検査では明らかな異常はなかったが、直腸検査において直腸粘膜の不整が認められた。第12病日、エコー検査において明らかな異常所見はなく、続いて上部・下部消化管内視鏡検査行ったところ、十二指腸粘膜の軽度浮腫、結腸粘膜の不整・浮腫が認められた。同部位から採取した検体を病理組織検査したところ、大腸炎と軽度の胃炎の組織像が見られた。低アレルギー食、抗生剤、整腸剤、副腎皮質ステロイドの投与により、大腸性下痢の消化器症状は改善した。
【診断】
症例1、2ともに慢性的な消化器症状、消化器に炎症を引き起こす疾患の除外、内視鏡検査における病理組織検査、食餌・抗生剤・免疫抑制療法への反応により、IBDと診断された。
【治療経過】
症例1:IBDと診断された時より、制吐剤としてH2ブロッカーであるザンタック 2mg/kg BID、抗生剤としてフラジール 10mg/kg BID、免疫抑制剤としてプレドニゾロンを消化器症状の程度により0.25 ~ 2mg/kg SID or BID or EOD or 週2回で投与した。プレドニゾロンの漸減により、嘔吐などの消化器症状の再発が認められ、また血液生科学検査により、肝酵素値の上昇が認められたため、免疫抑制剤としてシクロスポリンを2 ~ 4 mg/kg SID or EOD poで追加投与したところ、完全ではないものの症状の寛解期間の延長が認められた。
症例2:IBDと診断した時点(第26病日)より、低アレルギー食としてz/d、以前処方されていたフラジール10 mg/kg BID、次硝酸ビスマス、キャベジン、水酸化アルミニウムゲル、ビオフェルミンに加えプレドニゾロン 0.9mg/kg SIDで経口投与したところ、しぶりなどの大腸性下痢の症状はほとんど認められなくなった。しかし、第43病日からプレドニゾロンの用量を0.75mg/kg SIDに漸減したところ、しぶり、粘液便などの症状が再発したため、第66病日にプレドニゾロン1.1mg/kg SIDに増量した。すると、第73病日にはしぶりは無くなり、粘液便の頻度は低下した。また食餌療法として、w/dのIBDに対する効果があまり認められないため、低分子プロテインへと変更した。第87病日からプレドニゾロンを0.9mg/kg SIDまで減量したが、良便を維持できていたので、第102病日にプレドニゾロン0.8mg/kg SIDに減量した。しかし、第108病日、しぶりはないものの血の混じった軟便が認められたので、大腸性消化器症状を持つIBDに対する免疫抑制剤としてメサラジンを18mg/kg BIDで追加処方した。第115病日、症状は良化せず変化がなかったため、プレドニゾロン0.45mg/kg BIDへ、低分子プロテインを腸管アシストへ変更し、メサラジンは第122病日まで続け、第123 ~ 129病日の間は休薬とした。第118病日から便はほぼ正常時のものとなり、消化器症状の寛解が得られた。
【考察】
今回、IBDと診断されたイヌ2症例において、ある一定量の副腎皮質ステロイドによる消化器症状の寛解は認められるものの、ステロイドの投与量を漸減すると症状の再発が認められた。通常、2~4mg/kg/日の免疫抑制量から開始し、その後症状の改善をみながら徐々に(3~4週毎に)漸減することが多いが、今回の症例のように完全には投薬を中止できないことも多い。また、免疫抑制量と抗炎症量とでは効果に明らかな差がみられなかったという報告もあり、副腎皮質ステロイド製剤の投与量や期間については個体差があるといえる。症例2については、プレドニゾロンの1日における投与量は変更せず、SIDからBIDに変更したことによって、血中における持続時間が延長され、症状の寛解が認められた可能性が考えられる。
プレドニゾロンでは効果が不十分な症例には、そのほかの免疫抑制剤の併用が考慮されている。イヌやネコのIBDで使用される免疫抑制剤にはアザチオプリン、シクロスポリン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メトトレキサートなどがあるが、その効果については十分に検討されていない。最近のAllenspachらの報告では、シクロスポリンがイヌのステロイド抵抗性のIBDに対して非常に効果的であることが示されている。この論文ではシクロスポリン(5mg/kg/日)を10週間投与したところ、ほとんどの症例で2~4週以内に症状が改善しており、その後の寛解率も高いとされている。症例1においては、シクロスポリン製剤であるアトピカ(2.5~5mg/kg/日)の投与により症状の改善が認められ、また併用しているステロイドの減量に成功しているため、ステロイド投与過剰による肝障害や医原性クッシング症候群などの副作用を抑えることにも有効であると考えられる。
大腸炎が主症状である場合には、プレドニゾロンに変わる抗炎症剤としてスルファサラジン(サラゾスルファピリジン)やメサラミン(メサラジン)を用いることができ、症例2において、メサラジンであるペンタサ(18 mg/kg BID)をプレドニゾロンと併用したが、明らかな症状の改善は認められなかった。その理由として考えられるのは、IBDは病変が大腸に限局しないことも多く、またメサラミン製剤の効果が不十分なことが多いことが挙げられる。
IBDの犬の食餌管理において、低アレルギー性で消化性がよく、中等度に脂肪が制限されており、動物の栄養要求を満たすことができるフードが推奨されているが、どの療法食が消化器症状の緩和につながるかは、その症例ごとに試していくしかないと考えられる。症例2においては、z/dや低分子プロテインではあまり効果が認められなかったが、腸管アシストへの変更によって消化器症状が軽減した可能性が考えられる。現在、免疫抑制剤がIBD治療の軸であるが、食餌による症状のコントロールの重要性を再認識する必要があると考えられる。
IBDの予後は、症状のコントロールという観点からは良好であることが多い。しかし、ほとんどの症例では何らかの形で長期間あるいは一生の治療が必要になる。Cravenらの報告では治療によって寛解しその後も投薬の必要がなくなった症例は26%のみであり、13%の症例では治療抵抗性を示したため安楽死されている。IBDと診断したにもかかわらず副腎皮質ステロイド剤が有効でない場合は、免疫抑制剤を併用する前にもう一度最初からの診断アプローチを見直す必要があると考えられる。
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