|
やどり木カンファレンス
様々な眼表面疾患を呈した猫の1例
2008年4月
重山純子 碇屋美加子 長澤昭範
【はじめに】
猫の眼表面疾患には猫ヘルペスウイルス(以下FHV-1)が関与しているとされている。猫の約97%がFHV-1に罹患しているという報告もある。一次感染では呼吸器と結膜の症状が認められ、そのうち80%が潜伏感染となる。30%は散発的、周期的にウイルスを排泄し、少数の猫が二次感染を発現する。二次感染は通常眼組織だけの発症であることが多く、再発性結膜炎や角膜病変を呈する。慢性化した場合には慢性流涙症、難治性角膜潰瘍、好酸球性角膜炎などが起こる。
今回、われわれは様々な眼表面疾患を呈した猫の1例を経験したのでその概要を報告する。
【症例】
雑種猫 オス 年齢不詳(10歳以上)
主訴:左眼の羞明
初診時:左眼の眼瞼結膜の浮腫と眼瞼の腫脹
【治療と経過】
初診時:結膜炎と診断。抗生剤の点眼と内服を処方、エリザベスカラー装着。
第14病日:左下眼瞼の内反と角膜表層潰瘍を認める。自己血清点眼を追加し、コンタクトレンズを装着。内反部位の被毛の角膜への接触を防ぐため、1週間毎に眼瞼の毛刈をする。
第33病日:依然として角膜表層潰瘍を認め、内反も良化しないため、内反矯正手術を提案したが、内科治療での経過観察とした。
第43病日:角膜潰瘍部が茶色く変化し、結膜組織が角膜上に増殖。専門医に上診した。猫ヘルペスウイルス感染と二次感染のコントロールが不完全であることが疑われたため、点眼をイドクスウリジン、インターフェロン、トブラマイシンに変更した。
第75病日:結膜組織が消失。トブラマイシンの点眼を終了
第90病日:角膜上の茶変部が黒色壊死化したためL-リジンの内服を追加
この間もほぼ毎週コンタクトレンズの確認と眼瞼の毛刈、洗眼を行なうが、眼瞼の内反は一進一退で、眼瞼の腫脹もしばしば認められた。
第210病日:黒色壊死部が剥離。すべての治療を一度中断
第217病日:左眼の涙嚢が腫脹。良化するが依然として眼瞼内反が認められるため再度専門医への上診を薦める。
第300病日:左眼と同様に右眼も下眼瞼が内反。角膜表層に異常は認めなかった。
第320病日:(電話で確認)右眼に角膜表層潰瘍が生じる
第343病日現在:両眼の眼瞼内反矯正手術を提案し、検討していただいている。
【本症例に発症した眼表面疾患に対するまとめ】
- 角膜表層潰瘍:上皮性の角膜潰瘍でFHV-1の神経寄生により表層が剥離したもの。本症例では内反部位と潰瘍部位が若干異なるため、内反による物理的刺激で引き起こされた潰瘍ではないと思われた。
- 角膜黒色壊死症=角膜分離症:角膜に慢性的な刺激(FHV-1感染、眼瞼内反、角膜潰瘍、涙腺異常)があると壊死を起こして黒色化する。本症例でも角膜刺激を起こす要素が多々あり、複合的に
- 肉芽様組織の出現:結膜組織が角膜上に出現。感染がコントロールできなかったために出現したと思われる。
- 眼瞼内反症:先天性と後天性に分類される。後天性内反症には痙攣性、瘢痕性、老齢性などがある。本症例では初期は角膜刺激に対する痙攣性の眼瞼内反であったが、内反が慢性化し、瘢痕化したものと思われる。
- 涙嚢炎:涙嚢と鼻涙管の炎症により、下眼瞼直下の内眼角が腫脹。異物などによるものとされているが、通常原発の原因は不明である。本症例ではFHV-1感染による眼表面の重度の炎症が鼻涙管に波及したものと思われた。
【考察】
角膜黒色壊死と眼瞼内反症 |
猫の眼表面疾患は症状が犬と類似していても病気の起序が異なるため、治療法も異なることに注意しなくてはならない。おおくはFHV-1が関与しているため、FHV-1のコントロールが必須となる。
本症例はFHV-1のコントロールが不良であったため次々と続発症が生じたものと思われた。瘢痕化する前に一時的な内反矯正を行なっていれば続発症は防げた可能性もある。
しかし、一見正常に見えた右眼においても眼瞼内反が出現し始めたことより、眼症状を頻繁に呈する猫においては無症状のときであってもL-リジンを常用するなどFHV-1に対するコントロールをしていく必要性を痛感した。
|