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やどり木カンファレンス

心臓ペースメーカー埋め込み術を実施した犬の1例

2007年11月

弓削田直子 田辺岳 徳留史子

【はじめに】
 徐脈性不整脈を呈する症例に対しペースメーカー埋め込み術は非常に有効な治療法である。ペースメーカー埋め込み術を適応する最も多い不整脈は第3度房室ブロックであり、次いで洞不全症候群(SSS)である。これらの不整脈症例における主症状は失神であるが、ペースメーカー埋め込み術の実施によりほとんどの症例において良好なQOLを得ることが可能となる。
 今回、元気消失し失神を呈し来院した洞不全症候群と診断された症例に遭遇し、ペースメーカー埋め込み術を実施したのでその概要を報告する。

【症例】
 品種:ミニチュア・シュナウザー 避妊済み雌 年齢:11歳11ヶ月齢 体重:7.0kg

【主訴】
 昨日より元気消失、食欲廃絶。倒れた。

初診時所見
 体温38.0℃。一般身体検査にて可視粘膜蒼白、著しい徐脈および聴診上LevienⅢ/Ⅵの収縮期逆流性雑音を聴取した。また、血液検査にて白血球数(35400/ul)の増加が認められた。心電図検査においては心拍数60回/分で規則的、P波は認められず洞静止の状態であり房室結節接合部性補充収縮であった。心電図記録中顕著な洞停止が認められ失神を呈した。レントゲン検査上上腹部肝臓付近の不透過性の亢進が認められた。心エコー検査上心臓の形態に異常は認められなかった。

【治療および経過】
 初診時血液検査にて白血球増多の原因究明のために精査を実施したいものの徐脈による失神を呈していたため、アトロピン負荷試験を実施した。その結果洞調律となり飼い主の希望により帰宅となった。
 第2病日よりイソプロテレノールの静脈点滴を実施すると同時に抗生物質の投与を実施した。第4病日まで維持したものの第5病日より、失神が頻繁に認められ、さらに間欠的な嘔吐も呈し一般状態の悪化が認められた。アトロピンおよびイソプロテレノール点滴に対する反応は無く、ペースメーカー埋め込み術を検討した。ペースメーカー埋め込み術に際し白血球数の増加原因が究明されておらず、間欠的な嘔吐を呈していたことから腹部超音波検査を実施した。その結果、十二指腸付近に低信号性のmass様物の存在が認められた。
 インフォームドコンセントの結果、現状が極めて致死的であることからペースメーカー埋め込み術を実施することとなった。

【方法】
 右頸静脈よりカテーテル電極を挿入し右心室心尖部に挿入し、一次ペーシングにより良好な電極設置部位を確認、決定した後電極の離脱を防ぐため頸静脈に結さつした。電極の一端をVVI式のパルス発生器に接続し、皮下組織に埋め込んで終了とした。

【術後経過】
 ペースメーカー埋め込み術翌日より元気、食欲の回復が認められた。さらに嘔吐も消失した。絶対的な安静および抗生物質、制酸剤等の対症療法にて維持している。

【まとめ】
 犬におけるペースメーカー埋め込み術の最も多い原因は第3度房室ブロック、洞不全症候群である。その他高度房室ブロックや迷走神経刺激の亢進を伴う疾患などがあげられる。ペースメーカー埋め込み術を実施する犬種としては、ラブラドールレトリバーが最も多い。次いでアメリカンコッカースパニエル、ミニチュア・シュナウザーが多く、その年齢は比較的高齢である。本症例も好発とされている高齢のミニチュア・シュナウザーであり、洞不全症候群を呈しておりペースメーカー埋め込み術の実施が最良の治療方法であると思われた。
 本症例は腹腔内腫瘤病変の存在により間欠的な嘔吐を呈していたものと考えられ、嘔吐が迷走神経緊張の亢進を高めたため、もともと存在していた洞不全症候群の徴候を惹起し頻繁な失神という症状を呈していたものとも考えられた。本症例のように心臓刺激伝導系の障害に留まらない徐脈性不整脈を呈する疾患としては、頭脳内腫瘍(特に髄膜腫)、副腎腫瘍、内分泌疾患などが報告されている。本症例においても上記疾患に伴う徐脈性不整脈を否定するため神経検査、甲状腺機能検査、超音波検査を実施した。このような術前検査により消化管と思われる腹腔内腫瘤の存在が明らかとなったものの、消化管の腫瘤による嘔吐が迷走神経緊張を高め、結果的に失神という症状を主訴に来院するというケースはこれまでに経験したことがなく術前検査の重要性を痛感した。また、本症例においては白血球数の増加を認めペースメーカー埋め込み術における合併症のひとつである心内膜炎の発症が懸念されると同時に、腹腔内腫瘤病変の存在によりペースメーカー埋め込み術を実施してもなお術後のQOL向上が望めない可能性があることから、改めてインフォームドコンセントの重要性を痛感した。

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