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やどり木カンファレンス

甲状腺機能低下症の併発が疑われた上皮小体機能低下症の犬の1例

2007年11月

碇屋美加子、福永大督

【はじめに】
 上皮小体機能低下症は種々の原因によって上皮小体におけるパラソルモン(PTH)分泌が不足し、低Ca血症を引き起こす疾患である。低Ca血症によって末梢/中枢神経症状を呈することから生涯を通じて血清Ca濃度を維持するための治療が必要とされている。
 今回、甲状腺機能低下症の併発が疑われた上皮小体機能低下症の犬の症例に遭遇し、低Ca血症に伴う全身症状を呈していた。本例に対してCa製剤と活性型ビタミンD3の投与により良好な経過が得られたため、その概要を報告する。

【症例】
 症例はミニチュア・シュナウザー(オス、9歳)で、間欠的な呼吸促迫、振戦を主訴に来院した。一般身体検査上、元気消失、軽度の後躯歩様失調、顔面の掻痒感が認められ、さらに徐脈(安静時 56bpm)、白内障が確認された。本例は8歳時に強直性痙攣、軽度低Ca血症の既往があった。
 血清生化学検査では、顕著な血清Ca値の低下(4.1mg/dl)と無機P値の上昇(7.9mg/dl)が認められた。総サイロキシン(TT4)は1.9μg/dlと正常値であったが遊離サイロキシン(fT4)が3.9pmol/Lと低値を示した。なお尿検査、X線検査、超音波検査では顕著な異常はなかった。

【治療経過①】
 初診時から第6病日まで同様の症状を呈しており、第7病日に治療を開始した。グルコン酸Ca0.5ml/kg/dayを静脈投与した。第8~16病日は、グルコン酸Ca0.5ml/kgBID投与した。投与を開始してから徐々に全身状態が改善した。

【診断】
 第8病日にINTACT-PTHの測定結果が7.7pg/ml(8~35)と低値を示したので、上皮小体機能低下症と診断した。

【治療経過②】
 治療開始日から沈降炭酸Ca(100mg/kg/day)を、第8病日には活性型ビタミンD3(0.03μg/kg/day)経口投与を開始した。また、第11病日以降、臨床症状とfT4より甲状腺機能低下症が疑われたため合成レボチロキシン5μg/kg/dayの経口投与を開始した。
  その後一般状態があがり食欲も改善したので第16病日より通院治療とした。1日1回のグルコン酸Ca0.5ml/kg皮下投与をしたが血清Ca濃度があまり上昇しなかったため第20病日からグルコン酸Caの投与量を0.75ml/kgに増量した。第26病日よりふらつきなどの症状がなくなったため内服のみでコントロールすることとした。血清Ca濃度は徐々に上昇したが、第49病日に低下したため、活性型ビタミンD3を0.06μg/kg/dayに増やした。その結果歩様失調がなくなり状態は安定していた。第108病日には血清Ca濃度が目標値の8.2mg/dlになったため沈降炭酸Caを減量(50mg/kg/day)した。状態は現在も安定している。

【考察】
 今回の症例では、血清Ca濃度が低値にもかかわらず、Intact PTHが7.7pg/mlと低値を示したことより上皮小体機能低下症と診断し、グルコン酸Caおよび活性型ビタミンD3の投与を開始することで徐々に全身状態が改善した。
 治療経過において血清Ca濃度の上昇が緩徐だったことから、活性型ビタミンD3の投与量を血清Ca濃度が充分に上昇しない段階で中程度に増量したほうがよかったと思われる。
 しかしグルコン酸Caの過剰投与では、徐脈傾向を助長し、皮膚や腎臓などの石灰沈着をおこすことが知られている。このようなことから、皮下投与摂取部位の皮膚の経過、尿検査や血液検査の定期検査を行い、血清Ca濃度を8~9mg/dlに維持し高カルシウム血症にならないようにするべきと考えられた。
 ヒトにおいては自己免疫性多発性内分泌症候群(多発性内分泌低下症候群)という疾患の存在が知られているが、上皮小体機能低下症および甲状腺機能低下症も自己免疫反応の結果発症することから今回の症例も両疾患に相関関係があるのではないかと考えられた。そのため1つの内分泌機能低下をおこした症例は長い経過の中で他の機能低下症の有無を観察する必要があるのではないかと考えた。


 

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