|
やどり木カンファレンス
閉塞性黄疸を呈した胆管癌の猫に対して胆嚢・肝管‐空腸吻合術を行った1例
2007年10月
中尾 周、田辺 岳、阪口貴彦、長澤昭範
【はじめに】
胆管癌は猫の肝臓の悪性腫瘍のうち最も多くみられる腫瘍であり、多発性またはび漫性に増殖し高率に遠隔転移するため、予後不良の疾患である。肝外腫瘍の場合、胆管閉塞から胆汁うっ滞を引き起こし黄疸を呈する。このように生じた閉塞性黄疸は外科疾患であり、早急な胆汁排泄経路の確保を行う必要がある。一般には胆嚢‐小腸吻合術による閉塞解除が行われるが、総胆管や胆嚢管の重度拡張がある場合においては総胆管‐小腸吻合、胆嚢管‐小腸吻合も可能である。
今回、胆管癌に伴う肝外胆管閉塞により黄疸を呈した猫に対し、胆嚢・肝管‐空腸吻合術を行った症例に遭遇したため、その概要を報告する。
【症例】
ラグドール、避妊メス、15歳。黄疸を主訴に当院を受診した。元気、食欲の低下は一週間前より認められていた。
【初診時所見】
一般身体検査:体重 2.95 kg(BCS 2)、体温38.1℃、重度の脱水と黄疸を呈していた。黄疸は2、3日前より突然発現したとのことであった。
血清生化学:肝酵素、胆汁酸、ビリルビンの著明な増加が認められた。
腹部超音波検査:重度の胆嚢管拡張・蛇行、胆嚢・肝管拡張(φ7.0 mm)・肥厚が認められた。腫瘤は確認できず、肝臓のエコーレベルに異常はなかった。その他の臓器に著変は認められなかった。
【治療・診療】
肝・胆管疾患にともなう閉塞性黄疸と考え、胆管肝炎、腫瘍などを疑って治療を開始した。飼い主には予後不良の可能性を伝え、外科的治療をさらに提示した。
治療はアンピシリン 20 mg/kg IV BID、メトロニダゾール 10 mg/kg PO BID、グリチルリチン複合剤 1/4T PO BID、酢酸リンゲル液 5 ml/kg/hによって行い、肝炎への治療とともに全身状態の改善を図った。
【経過1】
脱水は改善したものの一般状態の向上は認められなかった。また嘔吐が認められないため強制給餌を行ったが十分量与えることは困難であった。内科治療の反応が不良なことから、飼い主の承諾を得て試験的開腹を行うこととした。
【手術所見・術式】
腹部正中切開にて開腹し腹腔内を検索した。肝臓は黄色調を増して赤褐色を呈し、辺縁が鈍であった。胆嚢ならびに胆嚢管・肝管は重度に拡張し、総胆管は蛇行していた。さらに総胆管部位には弾力性の結節性腫瘤が孤在性に認められた。腫瘤は周囲組織に固着し強い浸潤性を示していた。なお、その他の臓器組織に結節性病変はなかった。
胆嚢ならびに拡張した肝管を切開し高粘稠の胆汁を吸引したが、両者は交通しておらず、腫瘤による総胆管‐肝管分岐部における閉塞と考えられた。胆汁排泄経路の形成は総胆管部位での閉塞解除が困難と判断したため、胆嚢および拡張した肝管と空腸を吻合することとした。腫瘤は完全切除が不可能と判断し細胞診のみ実施した。腹腔内を洗浄後、定法通り閉腹した。
【細胞診】
悪性上皮性腫瘍(癌腫)を疑う
【経過2】
術後アンピシリン 20 mg/kg IV BID、ラニチジン 2.0 mg/kg SC BID、酢酸リンゲル液 5 ml/kg/h による治療を継続した。3日間絶飲食とし、その後鼻食道カテーテルによる給餌を試みたが、激しい流涎、嘔吐のため十分量与えられなかった。
術後の腹部超音波検査では、胆嚢・肝管径の減少(φ5.0 mm)が認められたものの依然拡張していた。また総胆管部位での腫瘤の描出は困難であった。
症例は一般状態や黄疸の改善をみることなく経過し、術後5日目に斃死した。
【考察】
本症例は胆管癌による閉塞性黄疸を呈し、胆嚢・肝管‐空腸吻合術を行ったが術後5日目で死の転帰を辿った。これは重度の黄疸、肝障害に加えて癌性悪液質に陥っており、外科侵襲、栄養管理不良が衰弱に追い討ちをかけた結果、斃死したと考えられる。
胆管閉塞は総胆管・肝管分岐部付近での腫瘍の発生によるものであり、腫瘤切除が困難であったことから、術式として胆嚢・肝管‐空腸吻合術の選択は適切であったと考えられた。しかしながら吻合径が細すぎたことや広範な閉塞の存在、また肝障害が重度であったことが、術後の黄疸の改善に至らなかった要因と考えられた。
栄養管理について、経鼻食道カテーテルによる給餌では拒絶行動が強く十分に栄養供給できなかったことから、術中の経胃あるいは経腸カテーテルの設置や末梢静脈栄養として脂質の静脈点滴なども考慮すべきであった。今後、予後不良の症例に対する非経口栄養についてさらなる検討が必要である。
最後に、超音波検査によって胆管閉塞を診断したが、閉塞の原因となっていた腫瘤の描出は困難であった。したがって、肝臓の脈管の解剖の熟知や超音波検査の精度を磨くことが今後の課題である。 今後も化学療法を行いながら、再発の有無をチェックしていきたいと考えている。
【参考文献】
- Stephen J. Withrow, E. Gregory MacEwen et al., small animal clinical oncology 4th ed. 483-491, Saunders, Philadelphia, 2001
- T. W. Fossum et al., small animal surgery 2nd ed., 475-482, Mosby, St. Louis, 2002
- Thomas G. Nyland, John S. Mattoon, small animal diagnostic ultrasound 2nd ed., 93-127, W.B. Saunders, Philadelphia, 2002
- 桃井康行 監訳、Gregory K. Ogilvie、Antony S. Moore著、猫の腫瘍、289-291、インターズー、東京、2003
- 長谷川篤彦 監訳、Larry P. Tilley、Francis W. K. Smith Jr. 編、小動物臨床のための5分間コンサルト 犬と猫の診断・治療ガイド第3版、447-449;738、インターズー、東京、2006
- 窪田出ら、肝外胆管閉塞の猫の1例、動臨研合同カンファレンス抄録、2006.9
|