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やどり木カンファレンス

多発性肥満細胞腫の外科的切除後、化学療法治療を行ったイヌの1例

2007年9月

小林久子

【はじめに】
 肥満細胞腫はイヌの皮膚腫瘍の約20%を占める腫瘍で、臨床ではよくみとめられ、簡単な切除のみでは再発・転移を繰り返す腫瘍である。今回、多発性の皮膚肥満細胞腫をみとめ、外科的切除、皮弁を用いての皮膚形成後、化学療法により再発防止をはかっている症例について考察した。

【症例】
パピヨン、雄、10歳
1年以上前より左側胸部体幹腹側、右側大腿部に腫瘤を認める。
腫瘤の増大傾向は認められない。以前に良性との診断を受けているとのこと。

【治療および経過】
 歯科処置時に腫瘤摘出の希望があったことから、腫瘤の針吸引を行った。多発性の皮膚腫瘤であることから肥満細胞腫stageⅢと仮診断した。

  • 一般身体検査:体重4.8kg(BCS3)、体温38.5℃、一般状態良好、多飲多尿(+)
  • 聴診:著変なし、触診:著変なし、胸部X線:著変なし、左側胸部体幹腹側部腫瘤直径9mm、右側大腿部腫瘤直径12mm
  • 血液検査:肝酵素値の上昇(ALP 429 U/L)、総コレステロール値の上昇(206MG/DL) 、バフィーコート塗抹:肥満細胞(-)
  • 超音波検査:肝臓:輝度の増加、左側副腎5.2mm、右側副腎4.1mm 、脾臓:著変なし、腎臓:著変なし、膀胱:著変なし

 多飲多尿(+)と左側副腎の増大から軽度のクッシング症候群の可能性が示唆されたが、外科的治療は可能であると判断した。

  • 術前に、抗腫瘍薬として PSL 1mg/kg SID
  • H1、H2受容体拮抗薬として 塩酸ラニチジン(Zantac ) 5mg/kg BID
  • フマル酸クレマスチン(タベジール ) 0.25mg/head BID
  • 抗へパリン薬として 塩酸シプロへプタジン(ペリアクチン ) 0.2mg/kg BID
  • 抗生物質として セファレキシン (シンクル ) 25mg/kg BID

 約2週間内服し、左側胸部体幹腹側部腫瘤直径8mm、右側大腿部腫瘤直径9mmと腫瘤の縮小を認めた。
 外科的切除において左側胸部体幹腹側部腫瘤は表皮、真皮とともに切除し、マージン2cm確保した。右側大腿部腫瘤は表皮、真皮、筋膜とともに切除し、マージンは1.5cm確保した。右側大腿部腫瘤はマージン確保が困難であり、また、可動が大きい部位であるため、腫瘍から放出されるタンパク質分解酵素と血管作用性アミンの局所性作用による腫瘤切除後の創傷治癒の遅延が予想されたため、回転皮弁を行い縫合し、術後2週間ケージレストとした。
術後は抗生物質(シンクル  25mg/kg)のみ内服を10日間継続。腫瘤摘出後の創傷治癒も順調であったため、術後22病日(第35病日)に化学療法を開始した。

化学療法プロトコール

  • ビンブラスチン(VLB エクザール ) 2mg/m2  I.V.ボーラス投与 2週間に1回、6回投与で終了。
  • PSL 1mg/kg SID  2週間(第49病日まで)
       0.5mg/kgSID   1週間(第56病日まで)
       0.5mg/kgQOD  
  • 塩酸ラニチジン(Zantac ) 5mg/kg BID
  • フマル酸クレマスチン(タベジール ) 0.25mg/head BID
  • 塩酸シプロへプタジン(ペリアクチン ) 0.2mg/kg BID
  • セファレキシン (シンクル ) 25mg/kg BID

 現在、VLB2回投与終了し、臨床症状、腫瘤の再発は認められない。

【考察】
 肥満細胞腫の外観は極めて多様で臨床所見だけでは悪性度の推定や挙動の予想はできない。また、肥満細胞腫は単発性の発生が多い(90%)が、今回は多発性(10%)であったためstageⅢに分類された。臨床症状もなく、腫瘤の増大傾向も認められなかったことから、腫瘤の存在は確認するも、飼い主は1年以上無処置であった。今回は外科的切除と化学療法によって再発なく、コントロールできているが、腫瘤を発見した段階での早期の針生検が望ましい。
四肢など可動が多く、マージンが取りにくい部位には皮弁が有効であることが示唆された。
 また、本症例はクッシング症候群との併発の可能性があり、腹腔内臓器への播種のチェックのためにも定期的に腹部超音波検査を行う必要があり、クッシング症候群の症状が発現するようなら確定検査もしていくべきである。

 今後も化学療法を行いながら、再発の有無をチェックしていきたいと考えている。
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