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やどり木カンファレンス ワクチン接種後アナフィラキシーショックについて 2007年5月 窪田出 【はじめに】 5種混合ワクチンを接種したシーズーが直後にアナフィラキシーショックを起こしたが、迅速な救急対応により状態改善を認めた。いくつかの知見や問題点が見出されたため、概要を報告する。 【症例】シーズー、未去勢オス、1歳4ヶ月齢、ワクチン接種のため来院 【既往歴】2005年12月、他動物病院にて8種混合ワクチン(デュラミューン8、共立製薬)を接種後、顔面腫脹などのワクチンアレルギー様症状を発症 【ワクチン接種日経過】 体重6.05kg、体温38.6℃、聴診所見正常、可視粘膜正常、その他身体検査上の異常認めず。インフォームドコンセントの結果、今回は5種混合ワクチンを接種することとなった。また、緊急時に備えるため、ワクチン接種後最低30分は院内で待機するように指示をした。
【本症例のまとめ】
【考察】 まず基本的なことだが、診察における問診がいかに重要であるかということを再認識した。本症例では問診にてワクチンアレルギー歴を確認していたので、緊急状態に陥る可能性があることを伝え、接種後は待合室で待機するよう指示できた。獣医師、オーナーともに心の準備ができていたと思う。結果的にはこのことが功を奏し、迅速治療へと結びついた。ワクチン接種はごく普通の診療であるため忘れがちになっているが、われわれの使っているワクチンは常に副作用がおこる可能性を持っている。ワクチン接種をした患者がいつ緊急状態に陥るかわからないのである。そのため、ワクチンの診察だからといって問診を決して怠ってはならない。 不運にもアナフィラキシーショックに陥ってしまった際には、迅速治療が必要である。そのためにはアナフィラキシーショックの病態が、末梢循環不全、低血圧、気道収縮、血管運動性浮腫などをおこす血液分布性ショックであるということを理解しておかなくてはならない。実際の治療では、獣医学・医学分野ともにエピネフリンが第一選択とされている。エピネフリンの気管支拡張作用と末梢血管収縮作用がアナフィラキシーショックにおける危機的状況を回避するために必要と考えられているからである。しかし、エピネフリンは不整脈や徐脈などの副作用を起こすことが知られている。さらに、重度のアナフィラキシーショック時にエピネフリン投与を推奨する、根拠のある文献は意外なほど少なく、最近では単純にエピネフリンを投与してもアナフィラキシーショックは改善しないという報告がいくつかある。本症例でも、成書よりもかなり少ない投与量で用いたにもかかわらず、2回目の投与時に徐脈、不整脈などの副作用が認められた。現時点で、エピネフリン投与を完全に否定する証拠もなく、やはりアナフィラキシーショックの第一選択薬になると思われるが、使用時は必ずモニタリングを行い、慎重投与を心がけなくてはならない。アナフィラキシーショックは生命に関わる病態であり、今後、エピネフリンの理想的な使用法などに関して新しい話題が出た場合には、十分に注目したいと思う。その他の治療薬に関しては、ノルアドレナリン、ドパミン、ドブタミンなどのカテコラミン類、コルチコステロイド剤、抗ヒスタミン剤などが報告されている。薬理作用からはドパミン5μg/kg/minでの持続点滴が最も理にかなっていると思われるが、気管支拡張作用をもたないため、重度の喉頭浮腫などを起こしている症例では、他の薬剤などを考慮する必要がある。ステロイド剤、抗ヒスタミン剤などは慣例的に用いられる傾向があるが、これらの薬剤のみで危機的状況の打破をすることは不可能であるため、状態が落ち着いてからの投与で十分であると考える。 一時的に治療が上手くいき、危機的状況が回避されたと思われた後も、すぐに油断してはいけない。数時間~最大24時間位(報告によっては48~72時間)までは再度アレルギー症状が起こる可能性があるとされている。そのため状態改善後も理想的には最低24時間のモニタリングが望ましいとされているが、一般病院ではなかなか難しい。今回は状態が安定したため、いったん帰宅としたが、すぐに顔面腫脹などのアレルギー反応が認められた。幸いアナフィラキシーショックの状態にはなく、局所型の症状であったため事なきを得たが、いくつかの報告では、数時間後に再びショック状態に陥ることも報告されているため、患犬を自宅に帰す場合には、十分なインフォームドコンセントが必要であると考える。 このように、一度でもワクチン接種後にアレルギー反応を起こした患者は、その後のワクチン接種に関して大きな問題が残る。本症例は、前年度は顔面腫脹の症状であったが、今回アナフィラキシーショックに陥った。一度でもアレルギー反応をおこしたことのある患者にワクチン追加接種を行う場合には、その是非や方法を十分に検討してから行う必要があるだろう。具体的には、①事前の投薬(ステロイド剤、抗ヒスタミン剤など)、②ワクチンの種類およびメーカーの変更、③感染防御能力の測定と接種回数の減少、④ワクチン接種の中止、などの対策が挙げられると思う。これらに関するデメリットとして、①の処置は反応を抑えることはありえるが100%予防できるわけではない。②も同様に変更後にアレルギーを起こさないという保証は全くない。③は抗体価が十分であれば問題ないが。低い場合は接種を考慮しなくてはならない。また、一部のペットホテルなどでは一年以内にワクチン未接種の場合は預かりを断られる可能性がある。④は当然伝染病罹患のリスクが高く、患者の生活に大きな影響を与えることが予想される、などが考えられる。いずれの方法をとっても現時点で100%の対応策はなさそうである。われわれホームドクターの仕事は、患者毎に最もよいと思われる方法を提案することと、病院として方針や対策を検討し、最大限のサポートをできるようにしていくことではないかと考えた。
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