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やどり木カンファレンス 前立腺周囲嚢胞を摘出した犬の1例 2007年5月 碇屋美加子、長澤昭範 【はじめに】 前立腺疾患は、通常高齢犬に多いが、まれに若齢犬や猫にもおこる。その病態は、過形成、感染(前立腺炎)、膿瘍形成(前立腺膿瘍)、嚢胞形成(前立腺嚢胞、前立腺周囲嚢胞)、そして腫瘍(腺癌)などがある。臨床症状としては排泄障害、尿道分泌物などがみられる。今回、前立腺肥大とともに前立腺周囲嚢胞を併発していた症例に遭遇したためその概略を報告する。 【症例】 症例は、雑種犬、未去勢雄、9歳、体重32kg。10日前からの元気低下、食欲不振、血尿を主訴に来院した。症例は頻尿を呈していたが、便秘などの排便異常や排尿痛はなかった。 初診時臨床検査所見:身体検査、血液および血清生化学検査において著変は認められなかった。尿検査で感染所見はなく多数の赤血球および上皮細胞が認められた。レントゲン検査(ラテラルおよび腹背像)において前立腺が骨盤腔より頭側へ変位、下腹部には膀胱と思われるマス様陰影が確認された。超音波検査では前立腺が若干不整だが実質内に明らかな嚢胞は認められなかった。また膀胱の頭側に周囲臓器との境界不明瞭な嚢胞が確認された。その嚢胞内の液体は、無色透明で若干の好中球、赤血球がみられる変性漏出液で細菌感染は認められなかった。CT検査所見から、嚢胞は前立腺に付着したものであると判明し、前立腺は肥大していた。前立腺液の培養結果は陰性であった。 治療および経過:以上の検査より前立腺周囲嚢胞を疑い、去勢とともにこの嚢胞の摘出を行った。正中切開による開腹により、この腫瘤は下腹部全域に皮膜に覆われた液体を含んだ嚢胞であることが確認され、その背側で前立腺に茎状に固着し、膀胱起始部とも癒着していた。嚢胞の被膜は柔らかく、中には750mlの無色透明な液体が貯留していた。嚢胞を基部にて切離した。 嚢胞の病理検査で、前立腺嚢胞と診断された。この嚢胞は腫瘍性変化にも伴うといわれているので注意深くその経過を追っているが、術後2ヶ月で嚢胞は確認されておらず、前立腺に異常は無く、大きさも退縮し始めている。排尿回数、尿量が正常になり、元気食欲も改善された。【考察】 今回に見られた嚢胞は、前立腺の周囲に嚢胞が存在するが、前立腺の内部には存在しなかった。嚢胞内の液体は無菌で、前立腺自体には過形成は見られたが特に著変もなくまた感染所見もないことから、前立腺周囲嚢胞と診断した。 この嚢胞の起源は明らかではないが、ミューラー管の遺残物の結果として発生するとされている。嚢胞は薄い皮膜で覆われており、今回のように非常に大きくなり、レントゲン検査で膀胱のように見えることがある。単純レントゲン検査では膀胱、前立腺との区別が付きにくいので、膀胱造影を行えば両者の関係が明らかになったであろう。今回は、膀胱造影を行うことはできなかったが、CT検査によっても開腹手術前に有用な情報をえることができた。 この嚢胞は小型では臨床症状を示さず偶然発見されることがある。しかし今回のように大型になると臨床症状を呈し、その場合、経皮的に液体の抜去を行うよりも摘出を行った方が良好な反応を示す。嚢胞の液体はほぼ無菌状態であるが、感染の恐れもある。前立腺へ開口している場合、前立腺膿瘍へ移行してしまい、治療はとても困難になる。膿瘍を形成するような状態の進行をとめるためにも外科的処置の必要性を感じた。 今回、症例の前立腺は画像検査上では石灰化、嚢胞などの病変はなかったが、嚢胞形成には先天的なもの炎症、腫瘍による二次的なものに大きく分類される。そのため、腫瘍病変などによる嚢胞の再発がないかどうか今後も経過を観察するべきである。
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