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やどり木カンファレンス

突発性後天性網膜変性症の犬の1例

2007年3月

重山純子 弓削田直子

【はじめに】

犬に失明をもたらす疾患には緑内障や白内障、網膜疾患など様々なものがあるが、今回、網膜疾患の中でもまれな疾患とされる突発性後天性網膜変性症の症例に遭遇したので報告する。

【症例】

ヨークシャーテリア、10歳齢、去勢オス
主訴:昨日から眼が見えていないようである

【経過】

● 身体一般検査
体重 4.62kg BCS=4~5
意識水準に異常は認めないが、固視点は確認されなかった。
・血液検査所見:ALPの上昇(552U/l)がみとめられるほかは顕著な異常は認めなかった。
・腹部超音波検査所見:特記所見は認めなかった。

● 眼科検査所見
外貌に大きな異常はなく、中間透光体に視覚を失うような問題は認めなかった。綿球落下試験、威嚇反射は陰性だった。対光反射は左右とも正常だった。眼底も異常は認めなかった。
以上のことより、網膜疾患と脳神経疾患との鑑別を行うため、網膜電図検査が必要であると判断し、眼科専門医に上診した。

【紹介先における眼科検査所見】

綿球落下試験、威嚇反射は陰性で、眼圧は左右とも16mmHgで正常値を示した。対光反射も正常で前眼房内にも異常はなかった。水晶体には若干の白内障を認めるものの、視覚に影響を及ぼすほどではなかった。

● 眼底検査所見
左右とも網膜動静脈が若干狭細しており、動脈の一部は消退していた。網膜反射の亢進を一部で認めたが、どれも軽度であり、視覚を失うほどの変化ではなかった。

● 網膜電図検査所見
光刺激に対する反応はなく、平坦な波形が得られた(図1)。

本症例は突然起こった失明であり、中年令で肥満体型であり、失明につながるような眼疾患を有しておらず、網膜にも視覚を失うような変化がなく、網膜電図検査では光に対して反応が認められないため、突発性後天性網膜変性症と診断した。

【突発性後天性網膜変性症(SARD)とは】

  • 見た目も日常生活においてもなんら問題のない健康な犬が、ある時突然失明し、恒久的に視覚を回復することがない状態に陥る網膜疾患。
  • 現在のところ原因は不明で、治療法もない
  • 診断:網膜を編成する細胞の特徴的な組織学的変化、臨床所見、ERG所見、SARDに関連が深いとされるいくつかの事項(表1)により決定される。

【考察】

SARDはまれな疾患といわれているが、当院においても本疾患を疑う症例が何例か来院されている。ERG検査まで希望されることは少なく、確定診断に至らないことが多いのが現状であるが、突然の失明を主訴に来院され、意識水準に異常を認めず、SARDの関連事項のいくつかを満たす場合にはSARDという仮診断を行うことが可能であると思われた。

SARDを発症したことにより、潜在化した肝疾患やクッシング症候群を検出することもあるのではないかと思われた。

【まとめ】

本疾患は原因が不明であり、治療法も現在のところ確立されていないため、オーナーの落胆は必須ですが、罹患犬が環境に順応できさえすればQOLは非常に良好であるため、インフォームが非常に重要であると思われた。SARDはいずれ網膜の菲薄化を生じるため、今後も定期的な観察を行っていきたいと思う。


図1:網膜電図検査所見

 

 

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