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動臨研カンファレンス

犬下垂体性副腎皮質機能亢進症をトリロスタンを用いてコントロールした1例  2006年7月

山口恭寛、阪口貴彦、窪田出、山村穂積(Pet Clinic アニホス)

 今回我々は、起立困難を主訴に転院してきた犬を両側前十字靱帯断裂と診断し、その背景と思われる下垂体性副腎皮質機能亢進症を、トリロスタンによってコントロールを試みた。

〔症例〕

 症例は他院にて2005年4月より腸炎の治療を受けていたビションフリーゼ(8歳、未去勢)で、他院にて膝蓋骨脱臼と副腎皮質機能亢進症疑いとされていた。2005年12月に急な起立困難を呈したため、当院へ転院となった。

〔初診時〕

 体重7.8kg(BCS4)、元気、食欲ともあるが、両後肢とも負重困難で起立状態を保てない状態。腹部膨満、被毛薄い。多飲多尿、多食、興奮状態であった。

〔各種検査所見〕

 各種検査にて、両後肢ともドロワー徴候をみとめた。レントゲン検査においても脛骨の前方変異、膝蓋骨脱臼が両後肢に認められた。また、腹部レントゲンにて肝臓の腫大が観察された。超音波検査において肝臓の過形成病変、左右副腎の腫大(約2cm大)を認めた。
 その後、副腎皮質機能亢進症を確定するためにACHT刺激試験を実施したところ、コルチゾールpreが6.1μg/dl、一時間後のpostが49.5μg/dlであった。また、生化学検査ではALP、LDH、GPTの高値を認めた。血糖値は正常であった。

〔治療〕

 上記より、起立困難・歩行の不安定は両後肢の前十字靱帯断裂によるものと思われ、また、急な靭帯断裂は経過の長い(8ヶ月程度と思われる)副腎皮質機能亢進症(PDH)による靭帯の脆弱化によるものではないかと考えた。
 よって、患畜の体重が比較的軽いことも考慮し、PDHの治療を行うことによって、脆弱化した筋・靭帯などは線維化によって修復され、関節は安定すると考え、また、PDHの併発症を危惧しPDHの治療を先だって行うこととした。
 副腎皮質機能亢進症の治療薬にはトリロスタンを選択し、導入直後の1週間はアジソンクリーゼなどに陥ることを警戒し、入院管理することとした。

〔経過〕

 入院中は飲水量をモニタし、トリロスタン30mg/headをSIDで導入を開始した。入院直後120ml/kg/dayほどであった飲水量は日を追うごとに減少し、1週間後退院の日には98ml/kg/dayとなった。また、3日おきに電解質(Na,K,Cl)をモニタしたが、良好な値が維持された。
 退院時のACTH刺激試験の結果はコルチゾールpreが5.3μg/dl、一時間後のpostが24.4μg/dlと高値ではあるが、PDHの臨床症状である腹部膨満もやや改善し、被毛も若干ではあるが改善される傾向を示した。
3週間後のACTH刺激試験ではコルチゾールpreが2.5μg/dl、一時間後のpostが4.9μg/dlと良い結果がえられたが、トリロスタンの効果が強すぎる状態となったとのではと考え、急遽トリロスタンを30mg/headでEOD投与と変更した。その際の一般状態、電解質等の問題はなかった。
 さらに2週間後のACTH刺激試験ではコルチゾールpreが5.1μg/dl、一時間後のpostが28.7μg/dlと逆に高値をしめしたため、トリロスタン投与量を30mg/headで5回/週と変則的投与とした。その際の一般状態、電解質等にも異常は認められず、飲水量も100ml/kg/day以下を維持していた。
 その後のACTH刺激試験ではコルチゾールpreが5.1μg/dl、一時間後のpostが17.4μg/dlという値を示し、その後のACTH刺激試験でも概ね同様の結果であった。
治療開始から6ヶ月経つ現在、歩様は安定し、PDHの臨床症状も緩和し、一般状態も良好だが、肝酵素値の上昇、胆泥貯溜、超音波検査上での副腎サイズの増大などPDHに起因すると思われる所見が得られている。

〔考察〕

 本症例は、急な両後肢の前十字靱帯断裂による起立困難という稀なケースであった。しかし、その背景には、8ヶ月もの経過におよぶPDHによる骨格筋や靭帯の脆弱化があったものと考えられた。
 また、本症例では、ACTH刺激試験の結果を見ながらトリロスタンの用量を変更してきた。その都度ACTH刺激試験を行い、用量に依存した結果が得られている。治療経過を通じてPDHの臨床症状は緩和し、一般状態も良好に保たれている。
このことからも、PDHの治療にトリロスタンを用いる際は、ミトタン使用時のような不可逆的アジソン兆候を招くことは考えにくく、ACTH刺激試験のコルチゾールpost値をかなり低値にコントロールすることが可能ではないかと考えられる。
 本症例では、3週目にACTH刺激試験コルチゾールpost値が4.9μg/dlと低値ながら良好な値が得られた。しかし、ミトタン使用時の感覚が災いし、アジソン傾向を危惧し、トリロスタンの用量を低減してしまった。今後、本症例においては、トリロスタンの用量を増量し、ACTH刺激試験コルチゾールpost値を5μg/dl程度でコントロールしていければと考えている。


 

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