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動臨研カンファレンス

呼吸困難を呈した高齢猫の1例  2006年5月

中尾周、田辺岳、阪口貴彦、山村穂積(Pet Clinic アニホス)

 急性の喘息様の発咳と声の変調を主訴に来院した高齢猫に咽喉頭狭窄、白血球増多が認められた。初期治療の反応が悪いため、全身麻酔下にて咽喉頭の精査を行った結果、感染をともなう急性咽喉頭炎と診断し、積極的な抗生物質療法と消炎療法を行ったところ、良好な経過を示した。

〔はじめに〕

 急性咽喉頭炎は種々の呼吸器および全身性感染症の一症状として認められることが多い。原因療法、支持療法によって治療に反応した場合、比較的予後の良い疾患である。しかしながら一方で、重度な喉頭部腫脹によって気道閉塞が生じた場合は気管挿管や気管切開が必要となる救急疾患である。
 今回、咽喉頭炎によって気道狭窄が生じ、呼吸困難を呈した猫の症例に遭遇した。積極的な抗生物質療法によって良好な経過が得られたため、これを報告する。

〔症例〕

 症例は日本猫、メス、17歳、体重4.20 kgで、近年はワクチン未接種である。初診時当日より喘息様の発咳、声の変調を急性に発現し、食欲・元気は低下しているとの主訴で来院した。
初診時一般身体検査所見:体温 39.2 ℃、鳴き声は変調してダミ声で、ヒューヒューと喉を伸ばすように呼吸をしており、Cough test陽性で乾性発咳が認められた。聴診では気道狭窄音が聴取された。また、その他の呼吸器症状は認められなかった。

血液検査所見:CBCならびに血清生化学検査を行った。WBC増多(19,800 /μl)が認められたが、その他著変はなかった。

X線検査所見:咽喉頭部における気道の背側よりの圧迫像が認められた。肺野に異常は認められなかった。

治療経過①:症状が急性であったため炎症性の気道狭窄を疑って、第1病日よりABPC 20 mg/kg皮下注、乳酸リンゲルの皮下補液によって治療を開始したが、改善がみられないため第3病日よりプレドニゾロン 1 mg/kg筋注を追加した。
 しかしながら発咳頻度の増加、努力性呼吸、元気消沈、食欲廃絶と症状は悪化の一途をたどったため、第8病日に全身麻酔下で咽喉頭の精査(内視鏡による詳細の観察、生検)を実施し、気道狭窄病変の原因追究を行った。

喉頭部内視鏡所見:咽喉頭は全体に腫脹していた。特に披裂軟骨の腫脹が著しく、喉頭部における気道狭窄が認められた。なお、増殖性病変など異常構造物は認められなかった。

喉頭部FNA所見:腫脹の著しい披裂軟骨部から目視下でFNAを行った。採材された細胞は、変性好中球主体の急性炎症反応像であり、上皮、マクロファージの他、球菌、短桿菌も少数みられた。なお腫瘍細胞は認められなかった。

薬剤感受性試験:FNAの結果から細菌感染を疑い、薬剤感受性試験を行った。

分離細菌

Pasteurella multocida
Neisseria sp.

感受性試験結果

ABPC S AMK R
CVA/AMPC S EM R
ASPC S LCM R
CEX S CLDM R
CCL S CP S
CEMT-PI S OFLX S
CPR S LVFX S
GM S ST S
(S:感受性、R:抵抗性)

診断:感染を伴う急性咽喉頭炎

治療経過②:感染制御と咽喉頭の腫脹を軽減することを目的として、喀痰への良好な分布を示す第4世代セフェム系抗生物質であるセフピロムと、NSAIDであるケトプロフェンを主体とした治療を行うこととした。
 第9病日より入院管理とし、セフピロム40 mg/kg bid点滴静注、ケトプロフェン 0.5 mg/kg sid皮下注(4日間のみ)、乳酸リンゲル3 mg/kg/h 静脈点滴を行いながら、高栄養食の強制給餌によって栄養管理をした。
 治療反応は良好であり、第10病日にはCough test陽性であるものの、日中の発咳はほとんど認められず、第12病日には気道狭窄音も聴取されなくなった。元気、食欲ともに徐々に上昇していった。
 第14病日には症状は消失しており、X 線検査にて咽喉頭の気道圧迫像の消失、CBCにてWBCの減少が認められたことから、第15病日に退院とし、自宅にてオフロキサシン 7 mg/kg sid内服を一週間継続した。

 退院後一週間の間に症状の再燃は見られなかったため、内服を終了した。その後も良好に経過し、呼吸器症状は認められていない。

〔考察〕

  以上の経過より、本症例では原疾患としてFVRの可能性が考えられ、発咳や努力性呼吸、そして二次感染によって咽喉頭の腫脹が重篤化し、気道狭窄に至ったと推察された。結果的に積極的な抗生物質と消炎剤によって良好に経過したが、初期に行った対症療法には反応せず、症状が悪化していった。
 このような咽喉頭狭窄症例は、重篤な場合、気道確保が必要となるため、原疾患の診断・治療とともに、早期の増悪因子の除去が非常に重要と考えられる。一方で猫の咽喉頭狭窄の原因はウイルス感染や腫瘍、特発性炎症、肉芽腫などと多岐にわたり、それぞれ治療が異なる。したがって、対症療法に反応しない場合、今回のような全身麻酔下での咽喉頭の観察や生検をできるだけ早期に行うことは診断、治療ならびに予後を決定するうえで非常に有用な情報をもたらすと考えられた。


 

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