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動臨研カンファレンス

経口血糖降下剤を併用した糖尿病の猫の1例  2006年4月

碇屋美加子、弓削田直子、阪口貴彦、山村穂積(Pet Clinic アニホス)

〔はじめに〕

 糖尿病は、インスリンの欠乏または作用不足により持続的な高血糖状態となることである。臨床症状は多飲多尿、体重減少などである。猫の糖尿病は300頭に1頭の割合で多発する疾患である。治療は、臨床症状の改善と合併症の予防を目的とし、食事療法、インスリン療法または経口血糖降下剤を行う。現在、わが国での糖尿病治療はインスリン療法が主体であり、経口血糖降下剤を用いた治療報告は少ない。
 今回、インスリン療法では血糖コントロールが困難であった症例に対し、経口血糖降下剤を併用することにより良好な経過が得られたのでその概要を報告する。

〔症例〕

 症例は歳齢の避妊雌であった。食欲不振にて来院、血液検査、細胞診により肝リピドーシスと診断し、食事及び内科療法を行っていた。症例は、治療経過中に多飲多尿、体重減少、後肢のふらつきを主訴に本院に再来院した。
 症例の絶食時の血糖値は537mg/dlであった。生化学的血液検査では、AST、ALT、ALP、中性脂肪、コレステロール、血清フルクトサミン濃度の上昇がみられた。尿検査ではケトン体は検出されなかったが、尿糖が確認され、以上より肝リピドーシスを原疾患として二次的に糖尿病を併発した診断し、入院管理下において治療を行うことした。

〔治療および経過〕

 症例には、食事療法と支持療法として静脈点滴および内服を行った。同時に、速効型インスリン(ノボリンR)の2回の皮下投与ならびに持続点滴を試みた。しかし、どちらにおいても血糖値が正常範囲で維持できなかった。そこで、中間型インスリン(ノボリンN)への変更を試みたが、同様であった。そのため、第22病日に食事療法およびインスリン療法に加え、αグルコシダーゼ阻害剤(16mg/cat、BID、po)を併用した。その結果、血糖値は100mg/dlまで降下し、維持が可能になった。体重減少および飲水量の増加も改善された。
 現在は、食事療法とインスリン療法およびαグルコシダーゼ阻害剤を併用している。

〔まとめ〕

 わが国の猫の糖尿病治療は、インスリン療法が主であり、経口血糖降下剤の投与は無効であるといわれていた。しかし、近年、経口血糖降下剤は他の治療法と併用することにより、良い成績を収めているともいわれているが、わが国での治療報告は少ない。
 今回使用したαグルコシダーゼ阻害剤の作用は、腸管からの単糖類以外の炭水化物の吸収を阻害し、結果的に食物原性の糖生成を減らす。本剤の単独での使用は、猫の血糖値を250~300mg/dlに維持する。しかし、食事療法または、インスリン分泌を促進させたり、末梢のインスリンの感受性を改善する他の経口血糖降下剤と併用すると、さらに高い効果を得られるといわれている。今回は、本剤の使用、食事療法およびインスリン療法を併用し、更なる血糖値の降下を得られ、臨床症状の改善も見られた。食事からの炭水化物の吸収を遅延させ、食後血糖値の過度の上昇を抑えることによって、その後はインスリンによって血糖値を徐々に降下させていると考えられた。
 本剤の使用にあたり、低血糖の恐れがあるので、低用量から開始し、インスリンの用量にも注意する必要があった。また、副作用として下痢などの消化器症状がある。本症例も本剤の内服を始めてから軟便となったが、m/dからw/dと食餌を変更することにより改善した。
症例は、肝リピドーシスの治療中、インスリン抵抗性を増し、さらに過剰なカロリー摂取により糖尿病を併発したと考えられる。インスリン抵抗性を示した症例には、インスリン療法のみでは血糖値のコントロールは難しく、食事療法とインスリン療法と本剤の様な食後高血糖を是正する薬剤を併用することにより良好な結果を得ることができた。

 今後は、症例数を重ね、猫の糖尿病の治療でαグルコシダーゼ阻害剤をインスリン療法および他の経口血糖降下剤の補助的治療薬として効率よく使用できるように検討を重ねていきたい。

 

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