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動臨研カンファレンス

犬の心膜中皮腫の1例  2006年3月

中山史子、橋本志津、山村穂積(Pet Clinic アニホス)

〔はじめに〕

中皮腫は体腔の漿膜内層より発生する中胚葉由来腫瘍である。中皮腫は犬ではめずらしく、ある報告では腫瘍全体の0.5~0.8%とされている。犬での発生は胸膜中皮腫が多く、他に心膜・腹膜・陰嚢、精巣鞘膜での報告がある。また、中皮腫では遠隔転移は稀であるが、腫瘍細胞が体腔全域に瀰漫性および結節性に広がり大量の出血性滲出液を伴うことから、臨床的には悪性と考えられている。しかし、品種差、性差の疾病素因は明らかにされていない。

今回当院において、心嚢水貯留のため心膜切除術を行ったところ病理学的に心膜中皮腫と診断された症例に遭遇したためその概要を報告する。

〔症例〕

シーズー、雄(未去勢)、7歳齢、食欲不振と咳を主訴に来院した。

〔初診時臨床検査所見〕

  • 一般身体検査所見 8.6kg、39.0℃
  • 血液検査所見 GPT軽度上昇
  • X線検査所見 心陰影の拡大
  • 超音波検査所見 壁側心膜と心外膜間のエコーフリー領域

〔経過1〕

 各検査所見から主訴である症状は、心膜液貯留によるものと判断し、心膜液の抜去を実施した。心膜液は血様で、比重1.030であり、鏡検下では血液細胞を背景に中皮細胞が散見されるのみで、診断を確定できるような所見は得られなかった。その後心膜液が徐々に増量したために196病日に心膜切除術を実施することとなった。

〔手術所見〕

 右側第4,5肋間より開胸し横隔神経より腹側の心膜を切除した。切除した心膜を観察したところ心膜臓側面に小豆大の腫瘤が認められたため、病理組織学的検索に供した。

〔病理組織学的検査〕

心膜中皮腫

〔経過2〕

 術後滲出液抜去を目的として胸腔ドレーンを留置した。しかし胸水の減少が認められず、また病理組織学的検査で中皮腫と診断されたため、胸水の持続的な貯留を予測し胸腔ドレーンはそのまま留置した。第358病日(術後162日)非常に良好に管理されていたドレーンは老朽化のため除去した。また、第231病日(術後35日)より胸水の減少とQOLの改善を期待し、カルボプラチン300mg/m2での全身投与を約3週間毎に行った。
 現在、症例は4~5日ごとの胸水抜去および3週間毎のカルボプラチン全身投与を行っている。第476病日、症例の一般状態は落ち着いているが胸水の明らかな減少は認められていない。

〔考察〕

 本症例のように心嚢水貯留の原因を心膜切除術の前に明らかにすることは容易でない。しかし、心嚢水の持続的な貯留が認められる場合は心タンポナーデ改善のため胸腔内の探査を含めて心膜切除の適応症例になると考えられる。また、本症例のように術前は予測していなかったが、術後に半永久的に胸水抜去の処置等が必要になることもあるため、手術に際してオーナーへのインフォームが非常に重要となると再認識した。
 本症例では切除した心膜にわずかに認められた腫瘤が病理組織学的に中皮腫と診断された。中皮腫は細胞の性質から様々な形態をとる可能性があり各検査や手術中に明らかなマス様病変が認められなくても最後まで疑う必要があると考えられた。また、心膜中皮腫では心膜切除をすることによって胸腔内播種の危険性があるため、術後の経過が非常に重要である。
また、悪性中皮腫の化学療法としては犬では血管内および胸腔内シスプラチン、ドキソルビシン、胸腔内ミトキサントロン投与の報告がある。また、人ではシスプラチンまたはカルボプラチンと他の薬剤の多剤併用療法が行われている。今回の症例ではカルボプラチン単剤の全身投与を実施しているが、明確な胸水の減少が認められておらず、今後症例の集積を重ねて検討する余地がある。


 

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