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動臨研カンファレンス

低悪性度リンパ腫の犬の1例  2006年2月

田辺岳 弓削田直子 山村穂積 (Pet Clinic アニホス)

キーワード:犬 低悪性度リンパ腫

〔はじめに〕

犬の低悪性度リンパ腫は一般に進行速度は緩徐ながら、化学療法に対する反応が悪く、病変をコントロールできない場合が多い。その治療についての報告は多くはなく、適切な治療法の選択、治療開始時期の決定など判断に迷うことが多い。本例は2年間に渡って緩徐に増大した膝窩リンパ節の切除生検にて低悪性度リンパ腫と診断し、その後ドキソルビシンを用いた化学療法を行い、初診より3年6ヶ月経過する現在においても寛解を維持しているものである。

〔症例〕

 症例は元気消失を主訴に来院した9歳齢のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、避妊雌である。元気消失以外は、食欲もあり一般状態に問題ないとのことであった。

〔初診時臨床検査所見〕

 一般身体検査において、下顎リンパ節および膝窩リンパ節の腫大を認めた。血液検査ではALP、T-Choの軽度な上昇、胸部レントゲン検査では軽度の右心拡大を認めた。腹部超音波検査においては特に異常を認めなかった。針生検にて下顎・膝窩リンパ節の細胞診検査を行ったが、リンパ芽球比率の積極的な増加は認めず、リンパ腫の診断は得られなかった。飼い主と相談の上、抗生剤の内服を指示し経過観察とした。

〔経過1〕

 その後数カ月おきの検診において、膝窩リンパ節の緩徐な増大を認めていたが、一般状態に異常を認めず、飼い主の同意も得られなかったことから追加検査はせず経過観察としていた。初診より2年後に膝窩リンパ節の顕著な増大と舌の腹側面における潰瘍状病変を主訴に来院し、飼い主との相談の上、膝窩リンパ節の切除生検と舌の病変の生検を行った。

〔病理組織検査〕

  摘出されたリンパ節内部に異型なリンパ系細胞が多結節状からび慢性に増殖し、その異型細胞は比較的小型な類円形核と淡明な細胞質を有し軽度な大小不同や核異型が認められるものの核小体は不明瞭であった。異型なリンパ系細胞が腫瘍性に増殖していること、その細胞形態、増殖様式から低悪性度リンパ腫と診断された。またその腫瘍細胞はリンパ節の皮膜を超えて増殖し、リンパ管内にも腫瘍細胞の浸潤が認められるとのことであった。また、舌の病変からも同様の所見が得られた。

〔経過2〕

 病理組織検査より低悪性度リンパ腫との診断であったが、腫瘍細胞の周囲組織・リンパ管内への浸潤、舌の病変も考慮し、飼い主と相談の上、ドキソルビシン(1mg/kg/3wks)とプレドニゾロン(2mg/kg/dayを漸減)を用いた化学療法を行った。ドキソルビシンの2回目を投与した時点で下顎リンパ節等腫大したリンパ節の縮小、舌病変の消失を認め、完全寛解と判定した。その後ドキソルビシンを全4回投与し、プレドニゾロンは漸減し、投与終了とした。

 その後の定期検診においてもリンパ節の腫大、舌病変等を認めず、初診より3年6ヶ月経過した現在においても寛解を維持している。

〔考察〕

 犬の低悪性度リンパ腫は、一般に見られる中~高悪性度なリンパ腫に比べ稀に発生するといわれている。その診断は、一般に針生検では困難とされ、リンパ節の切除生検による病理組織検査により診断される。また、中~高悪性度なリンパ腫に比べその進行は緩やかであり、化学療法への反応も悪い。そのため、治療はメルファラン、クロラムブシルやプレドニゾロン等を用いたマイルドな化学療法か、無治療で経過観察されるケースが多い。また、人医領域においても、無治療にて経過観察をした例とCHOP(もしくはCVP)療法を行った例を比較し、生存期間に有意差がなかったとの報告もある。

 今回、我々が経験した例においてはドキソルビシンとプレドニゾロンを併用した化学療法が有効であり、経過としては短いが、化学療法開始から1年4ヶ月経過する現在においても寛解を維持している。

 今回のように、低悪性度なリンパ腫と診断されても、ドキソルビシンを用いた化学療法に反応する症例もあり、治療法の決定において低悪性度リンパ腫の中でもさらに細分化した分類の必要性が感じられた。

 現在リンパ腫の病理学的分類を用いた治療法の検討、予後判定が盛んに報告されており、人医領域において現在最も一般的となりつつある分類が1999年に提唱された新WHO分類である。この分類は、リンパ腫(non-Hodgkin Lymphoma)をまずB-cell系とT/NK-cell系に分類し、これをさらに免疫染色や染色体・遺伝子解析の情報に基づいて分化発生学的段階で分けることで、疾患単位に細分化している。人医領域においてはこの新WHO分類に基づく標準治療、予後予測が確立されつつあり、獣医領域においても近い将来こういった分類法が確立され、今回の症例のような場合にも治療法の選択や予後の予測も可能となるかもしれない


 

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