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動臨研カンファレンス

再発を呈した胸腺腫のネコの1例  2005年11月

池谷大輔 岡田みどり 弓削田直子 山村穂積 (Pet Clinic アニホス)

 

〔はじめに〕

 胸腺腫は、胸腺上皮細胞に由来する腫瘍で、イヌおよびネコにおける発生はまれであるとされいる。発生中央値が9.5歳と、主に老齢のネコが罹患し、若齢での発生は非常にまれである。臨床症状は、主に気道に関与しており、胸水または大きな圧迫性の腫瘤による呼吸困難・発咳・発声障害などがある。報告されている腫瘍随伴症候群は、高Ca血症・重症筋無力症・食道拡張症・剥脱性皮膚炎などがあるが、ネコの場合イヌほど多くは発生しないとされいる。鑑別診断としては、甲状腺癌・脂肪腫・転移性の腫瘍などが挙げられるが、リンパ腫との鑑別が困難で最も重要である。治療としては、外科的切除・化学療法・放射線療法などがあるが、ネコの場合イヌに比べ、腫瘤がしっかりした皮膜に覆われていること、浸潤性が低いということから外科的切除が多く行われる。またそれにより予後はよく、再発はほぼ無いとされている。今回我々は、胸腺腫の再発が疑われたネコの一例に遭遇したので、その概要を報告する。

症例

 症例はアメリカンショートヘアー、オスの10歳齢であり、既往歴はなく、3種混合ワクチンの接種も年1回行っている。初診時は8歳齢で、呼吸が苦しそうという主訴で当院を来院した。再診時の臨床症状は全くなかった。

〔血液検査所見〕

 白血球の有意な上昇、その中でもリンパ球数の著しい上昇が確認された。その他、生化学検査において異常は認められなかった。

〔画像検査所見〕

 胸部レントゲン検査では、胸腔内全域における不透過性の亢進、ラテラル像における気管の有意な背側変位が確認された。
  超音波検査では、心臓の頭側に巨大な実質性のmass・胸水の貯留を確認した。

〔胸水・針生検所見〕

 胸水は、乳び胸水であり、多数の成熟リンパ球が認められた。
 腫瘤の針生検においても、多数の成熟リンパが確認され、リンパ芽球の積極的な増殖は認められなかった。

〔治療・経過〕

 左側第4〜5肋間からのアプローチによる開胸手術を行い、左側胸腔内全域を占拠していた腫瘤を摘出した。腫瘤は、縦隔から右側胸腔内にも一部侵入していた。摘出した腫瘤の病理組織学検査を行ったところ、腫瘤は異型の認められないリンパ系細胞で構成され、角化傾向を示す胸腺上皮が混在していた。角化細胞および他の細胞に悪性所見・周囲組織への浸潤性増殖は認められなかった。これらのことから摘出した腫瘤を胸腺腫と診断した。その後、本症例は腫瘤摘出後6ヶ月時のレントゲン検査でも再発の所見は確認されず、症状も全くなかった。
  しかし、腫瘤摘出後19ヶ月時にワクチン接種前の聴診を行ったところ、こもったような心音が聴取された。レントゲン検査を行ったところ、前胸部部分の不透過性の亢進がみられた。この時、症例は元気食欲もあり無症状であった。超音波検査を行ったところ、心臓の頭側に前回と同様、直径4cmほどの実質性のmassおよび胸水の貯留が確認された。採取された胸水は血様乳び胸水で、多数のリンパ系細胞が弧在性に採取され、成熟リンパ球が主体を占めていた。前回同様、第4〜5肋間よりアプローチし、再度摘出を行った。摘出された腫瘤は、以前摘出した腫瘤と同様な組織像をしており、異型の認められないリンパ系細胞で構成され、その中に少数の胸腺上皮細胞が混在していた。個々の細胞には、悪性所見・浸潤は見られなかった。これらのことより、今回摘出した腫瘤は胸腺腫の再発病巣とした。
  本症例は、腫瘤再摘出後44日のレントゲン検査において胸水の貯留・再発の所見は確認されず、現在も再発所見・症状はない。

〔考察〕

 ネコの胸腺腫は通常、外科的に切除することにより、再発もなく良好な予後を得られるとされてきた。しかし今回の症例では、切除後19ヶ月での再発の確認、さらに再発確認時には臨床症状が全くなかったことなど、これまであまり報告されていないようなことがみられた。
 これらのことから、今後は外科的切除を実施し、良好な予後を得られている症例に対しても、症状にかかわらず再発を考慮に入れ、定期的な画像的検査を行う必要があると考えられる。


 

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