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動臨研カンファレンス

免疫不全症が疑われた犬のクリプトコッカス症の1例  2005年10月

阪口貴彦 山村穂積(Pet Clinic アニホス)

 

2歳のボルゾイの雄が瞬膜突出、鼻出血、下顎リンパ節腫大を主訴に来院した。各種検査により、全身性クリプトコッカス症と診断し、治療を開始した。一時的に治療を休止するまで改善したが髄膜炎症状を呈したため、MRI検査と免疫グロブリン濃度測定を行った。結果、IgA欠損症様の免疫不全症の存在するクリプトコッカス性髄膜炎が疑われた。現在クリプトコッカス抗原価は陰性になってはいるものの、フルコナゾール5mg/kgSIDで投与して経過を観察している。 キーワード:犬、免疫不全症、クリプトコッカス症

〔はじめに〕

 クリプトコッカスは鳩が重要な媒介者として関係している酵母菌に類似する球形真菌で、環境中のクリプトコッカス胞子を吸引したときに感染する真菌症である。犬においては、中枢神経、上部呼吸器、眼、皮膚などが侵されることが多く、直接的な病巣の拡大や血液介在性の播種によって全身に広がると云われている1)。また人においても代表的な日和見感染症として知られており、何らかの免疫低下/不全症の続発性疾患の一つと考えられている。
 今回我々はクリプトコッカス症の犬において、免疫グロブリン濃度測定結果により免疫不全症が疑われた症例に遭遇したので、その概要を報告する。

症例

症例は、クリプトコッカス症による全身状態の悪化と下顎リンパ節の腫大を主訴に来院した2歳のボルゾイの雄、体重35.5kgである。

初期の症状はくしゃみの回数が多いことであり、ついで鼻梁が腫れてきたとのことであった(図1)。他院で鼻炎との診断をうけて、抗生物質等の治療歴があり、一時的に反応があったものの徐々に全身状態が悪化し、クリプトコッカス症の疑いを指摘されていた。混合ワクチン・フィラリア予防は実施されており、同居のボルゾイには症状はないとのことであった。散歩コースやよく行くドックランには、鳩が多数いるとのことであった。

図1 著明な鼻梁の腫脹が観察された

初診時身体一般検査:体温.39.0℃、瞬膜突出、鼻出血、傾眠傾向であった。呼吸促迫ではあったが、聴診で心音/肺音に異常はなかった。下顎リンパ節は右側直径10cm、左側直径6cm大で両側腫大していた。

血液/生化学検査所見:著変は認められなかった。

頭部X線所見:鼻腔内・前頭洞の不透過性の亢進が認められた。

眼底検査所見:著変は認められなかった。

リンパ節吸引針生検所見:吸引針生検にてクリプトコッカス菌体を多数認めた(図2)。

クリプトコッカス抗原/抗体検査:抗原検査は、陽性で、抗体検査は2倍未満であった。

図2 下顎リンパ節はクリプトコッカス菌体で占拠されていた

治療および経過

各種検査所見より、全身性クリプトコッカス症と診断し、治療を開始した。

フルコナゾール5mg/kg.BIDで1週間、その後8.5週間SIDで投与した。一般状態の改善(初診時の臨床兆候の消散)とリンパ節縮小、フルコナゾール9.5週間投与したことにより、いったん休薬した。この時点での抗体検査も2倍未満であった。

しかし、一ヵ月後、頭頚部触知の嫌悪・疼痛、瞬膜突出、元気・食欲低下、傾眠傾向を主訴に来院した。下顎リンパ節は右側直径1.5cmと縮小したままであったが、頭頚部触知の嫌悪・疼痛という髄膜炎を疑わせる症状の発現により、病巣の位置と波及範囲並びに基礎疾患の有無の精査を目的として、東京大学動物医療センターに上診するとともに、フルコナゾール5mg/kg.SIDで投与再開した。

MRI所見:右前頭洞に膿と考えられる液体貯留の存在、左中耳内の液体貯留(中耳炎の存在)が確認された(図3)。

髄液検査:髄液内の細胞数の軽度上昇、クリプトコッカス菌体は確認されなかった。

免疫グロブリン濃度測定:IgA 0.2mg/ml、IgM 2.7mg/ml、IgG 13.5mg/mlであった(参考正常値IgA .0.4-1.6mg/ml、IgM 1.0-2.0mg/ml、IgG 10.0-20.0mg/ml)2)。

以上の検査より、クリプトコッカス性髄膜炎と基礎疾患として免疫不全症の存在が推察された。その後、クリプトコッカス抗原価測定が可能となり、現在クリプトコッカス抗原価は陰性になってはいるものの、フルコナゾール5mg/kgSIDで投与しているが、食欲不振や発熱、鼻出血などの症状が散発的に見られている。

図3 右前頭洞に液体貯留が観察された

〔考察〕

 犬のクリプトコッカス症は、漿液性から化膿性の鼻汁,くしゃみ,鼻出血および鼻背上の硬結/腫脹を呈する日常診察では比較的まれな感染症である。犬において感染いやすい臓器は中枢神経(50~80%),上部呼吸器(50%),眼(20~40%)および皮膚(10~20%)といわれている。1)また日和見感染症としても知られており、本症例のように血清IgAが低値であるIgA欠損症様疾患であれば容易に感染・再発を繰り返しことも理解できる。人においてもIgA欠損症は400人に1人の割合で発生するといわれる免疫不全であり、呼吸感染をもつ患者に対しては継続的な抗生物質が必要であるとされている。本症例も継続的フルコナゾールの投与が必要と考えている。
 また今回クリプトコッカス抗原価/抗体検査を実施した。抗原価測定は成書で治療効果判定に意義のある検査として広く知られる。本症例もフルコナゾールの初回投与から19週で陰性となった。一方、抗体検査は血中抗原の少ない病期や抗真菌薬により抗原量の減少する時期などで検出され、人においては病期や予後の判定に用いられる。本症例では、治療開始時と治療休止時の2回測定しているがどちらも2倍未満であり、病期に関連があるのか、免疫不全に関連があるのか不明のままである。犬における抗体検査の是非については、議論の余地があるが今後さらなる検討が必要と思われた。

(参考文献)

  1. Jean Stiles(小谷忠生監訳):Vet Clin North Am(日本語版)Vol30-5、81-10、学窓社、東京(2002)
  2. Michael J Day(辻本元、大野耕一監訳):犬猫の臨床免疫学、200-215、学窓社、東京(2002)

 

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