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動臨研カンファレンス

遠隔転移した犬の浸潤性脂腺上皮腫の1例 2005年9月

小野田等 窪田出 岡田かおり 岡田みどり 弓削田直子 山村穂積(Pet Clinic アニホス)

 

〔要約〕

左後肢肢端を中心とした皮膚の自潰を主訴に、14歳齢、雌のシー・ズーが来院した。皮膚の肥厚を呈し広範囲な壊死を認めたため、断脚術を行った。病理組織学検査にて浸潤性脂腺上皮腫と確定診断した。15ヵ月後、肺にび慢性結節性無気肺領域を認め、病理組織学検査により脂腺上皮腫の肺転移と診断した。

キーワード:浸潤性脂腺上皮腫、外科的切除、肺転移

〔はじめに〕

皮脂腺腫瘍は、イヌに最も多い皮膚腫瘍の一つであり、大別すると脂腺腺腫、脂腺上皮腫および脂腺癌に分けられる。従来、脂腺上皮腫は良性腫瘍に分類され、外科的切除により通常治癒するとされていた。しかし、稀にリンパ管浸潤やリンパ節転移を起こすものも存在する。今回、我々は左後肢皮膚における広範囲な壊死および皮下組織への顕著な浸潤を伴う浸潤性脂腺上皮腫と確定診断した症例に遭遇した。症例は通常の脂腺上皮腫と異なり外科的切除を行ったが、肺に転移し死亡した。よって経過と共に報告する。

〔症例〕

本症例は、2003年12月に来院した14歳の雌のシー・ズー、体重5.1kgであった。他院にて3ヵ月に及ぶ皮膚治療を続けていたが、改善せず当院を受診した。

初診時所見:左後肢の飛節から肢端にかけ皮膚が全周性に自潰し、潰瘍病変を呈し悪臭を伴っていた。病変部皮下識に連続した腫瘤を触知した。皮膚スタンプ検査により変性マクロファージや上皮細胞塊が見られ皮膚の壊死を認めたが、感染所見は得られなかった。

胸部レントゲン検査所見:異常所見なし。

血液検査所見:CBC、血液生化学検査ともに異常所見なし。2004年1月股関節離断術を用いて断脚を行い、得られた材料で病理組織学検査を行った。

病理組織学検査所見:表層の広範囲な自潰、壊死が認められ、脂腺への分化を示す基底細胞様の小型の上皮系細胞が浸潤、増殖していた。その増殖態度は顕著に浸潤性で、深部では骨周囲にまでその浸潤、増殖が認められ、炎症と線維増生の波及により一部の皮質骨が破壊されていた。これらの所見により浸潤性脂腺上皮腫と確定診断した。また、腫瘍細胞の脈管内浸潤が認められたが、同時に切除された鼠径、膝窩リンパ節への転移は認められなかった。

術後2ヵ月左前胸部において収縮期逆流性雑音が聴取された。僧帽弁閉鎖不全症と診断し治療を開始した。

胸部レントゲン検査所見:左心房および左心室陰影の拡大を認めた。肺野に異常所見なし。

術後15ヵ月発咳の増加を主訴に再診した。身体検査においてチアノーゼを認め、肺野においてラッセル音を聴取した。

一般身体検査所見:体表リンパ節等に異常所見なし。

胸部レントゲン検査所見:び慢性結節性無気肺領域が存在していることが示唆された。

腹部エコー検査所見:異常所見なし。

うっ血性心不全の治療を続けると共に、自宅にて酸素供給を行った。
術後17ヵ月呼吸不全により死亡した。
死後、ツルー・カット生検により肺病変部を複数採材し病理組織学検査を行った。

病理組織学検査所見:軽度肥厚した肺胞構造が見られ、材料の大部分は表皮基底細胞や有棘細胞に類似した細胞が脂腺細胞を混在して増殖する腫瘍組織が占めていた。腫瘍巣内には壊死が強く起きており、角化する細胞が一部に多く見られた。脂腺上皮腫の肺転移病巣であった。

〔考察〕

本症例は肉眼的所見において、通常の脂腺上皮腫と多くの点で異なっていた。飛節から肢端におよぶ広範囲な病巣。全周性に認める壊死像。断脚を余儀なくされた長期に渡る経過。また、組織所見においても、皮下組織深部にまで浸潤を認め、炎症と線維増生の波及による骨皮質の破壊まで起きていた。さらに脈管浸潤を認め、周囲組織への浸潤性が非常に顕著であったといえる。しかしながら、腫瘍細胞の形態について悪性所見は乏しく、病理組織学検査により浸潤性脂腺上皮腫と確定診断した。肺転移が疑える所見を得られた時点において、レントゲン、超音波検査などの所見において、他の臓器および器官に異常所見は得られていない。従って、広範囲な病巣、自潰や壊死などの臨床所見が得られる場合、浸潤性脂腺上皮腫は肺転移する可能性があると考察される。なお、新しい動物のWHO分類では脂腺上皮腫は、低悪性度腫瘍とされている。

 


 

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