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動臨研カンファレンス 後肢の疼痛を主訴に来院した悪性組織球症の犬の1例 2005年8月 徳留史子 阪口貴彦 山村穂積(Pet Clinic アニホス)
〔はじめに〕 悪性組織球症とは組織球増殖性疾患であり、組織球増殖性疾患は、良性腫瘍の皮膚組織球腫、反応性疾患の皮膚組織球症および全身性組織球症、悪性腫瘍の組織球肉腫および悪性組織球症に分類される。 その中で、極めて悪性の挙動を示す組織球肉腫あるいは悪性組織球症は、バーニーズマウンテンドック、フラットコーテッドレトリバー、ゴールデンレトリバーなどの一部の大型犬種に好発し家族性疾患といわれ、腫瘍の局在部位に応じた様々な病態を示す稀な疾患である。 確定診断には免疫染色によるライソゾームなどの各種酵素あるいは腫瘍マーカーなどの証明が不可欠であるうえに、転移を起こした組織球肉腫と複数の臓器に多発性に発生する悪性組織球症との鑑別は困難なため、確定診断にはいたらなかったが、後肢の疼痛を主訴として来院し同時に見つけられた脾臓の腫瘤が細胞形態学的に悪性組織球症と診断された症例を報告する。〔症例〕 ゴールデンレトリバー、雌、7歳、後肢に触れられるのを嫌うという主訴で来院した。 〔初診時の臨床所見〕 身体検査上、左後肢伸展時疼痛、削痩、上腹部腫瘤、軽度貧血(PCV37%)が認められた。血液生化学検査では大きな異常は認めなかった。 股関節のレントゲン画像上特に異常は認めなかった。骨盤腔内にも特に病変はみられず、神経検査上も特に異常は認めなかった。 腫瘤を触知した腹部のレントゲン撮影を行ったところ、中腹部にエックス線不透過領域が認められ(図1,2)、超音波により脾臓に直径10センチほどの結節性の低エコーの腫瘤を確認した(図3)。胸部レントゲン写真では、直径2センチほどの腫瘤が数箇所存在した。
〔経過〕 主訴である後肢の疼痛と、初診時に同時に発見された腹部腫瘤および肺腫瘤の関連は不明だったが、血管肉腫およびその肺転移の可能性を考え、脾臓破裂の危険性を防止する目的を考慮して初診から7日目に腹部腫瘤の摘出手術および病理組織検査を行った。術後、症例は後駆麻痺がおこり、随意排尿および排便が出来なくなった。化学療法は行わず、自宅での排尿管理、対症療法のみを行った。 徐々に肺の病巣は広がり、初診から三ヶ月で呼吸速拍、発咳等の呼吸器症状をみとめるようになり呼吸不全により初診から4ヶ月目に死亡した。〔脾臓腫瘤の病理所見〕 脾臓には直径15センチのものから2センチほどの大小多数の結節が形成されており、割面は黄白色でやや柔らかい組織であった。(図4,5)腸間膜リンパ節の腫大がみられたが、他腹部臓器に肉眼的異常は認めなかった。 脾臓の結節の病理組織検査では、不正円形で大小不同の細胞が主体であった。赤血球やヘモジデリンを貪食している細胞が見られ、核は不正形で大小不同が強く、大型明瞭な核小体を持つものや多核巨細胞も存在した。このことから悪性組織球症の疑いがあると診断された。
〔考察〕 悪性組織球症は複数の臓器に多発性に発生し、病変の形成された部位に応じたさまざまな症状を示す疾患である。 報告では脾臓の腫瘤、貧血、食欲不振等が症状として見られることが多いようである。 今回の症例の主訴は後肢の疼痛だったが、同時に発見された脾臓の腫瘤が悪性組織球症であったことから、骨あるいは神経領域に病変が形成、または神経領域を圧迫していたために現れた症状である可能性があると考えられた。 ゴールデンレトリバー、あるいはバーニーズマウンテンドッグ、フラットコーテッドレトリバーなどの好発であることが知られている一部の大型犬種においては、後肢の疼痛、ふらつきなどの症状を呈した際にあげる鑑別診断として念頭に置く疾患のひとつとして悪性組織球症をあげるべきだということが認識された。 |
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