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動臨研カンファレンス

抗甲状腺薬チアマゾールにより治療した
猫の甲状腺機能亢進症34例 2004年10月

白神久輝 阪口貴彦 山村穂積(北川動物病院)

【要約】

3ヶ月前からの下血を主訴に来院した犬において、各種検査により直腸腫瘤が多数確認され、腫瘤の一部を病理組織検査で直腸腺癌と診断した。そこで広範囲に存在する腫瘤を切除するため、下行結腸および直腸を腹腔内アプローチにて遊離し、その後肛門側より直腸プルスルー法を行った。この手術手技により腸縫合部へ緊張をかけることなく広範囲に直腸を摘出することが可能であった。現在術後2ヶ月経過しているが、直腸腺癌の再発は見られず良好な経過を示している。

【はじめに】

猫の甲状腺機能亢進症は、1979年にアメリカで報告され、アメリカでは現在、老齢猫が罹患する最も一般的な内分泌疾病となっている。日本では1992年に報告される。一定地域で無作為に高齢猫を調査した結果、甲状腺機能亢進症の潜在的な発生率は高いと報告されている。したがって、日本においても甲状腺機能亢進症は、老齢猫の一般的な内分泌疾病となりつつあると思われる。近年、当院においても本症と診断した猫を抗甲状腺薬チアマゾールにより治療する機会が増えたので、現時点34例での臨床所見、診断、治療およびその経過をまとめた。

【症例】

過去約4年間における罹患頭数は36頭であった。2000〜2002年度では年間2〜4頭であったが、2003年度は16頭、2004年度は7月までで11頭であった。発症年齢は7歳から21歳までの範囲で、平均は15.5歳であった。性別は雄16例、雌20例。品種は雑種猫が30例、チンチラ2例、アメリカンショートヘア2例、ペルシャ1例、ヒマラヤン1例であった。飼育環境は97%が屋内飼育であった。食事はドライフード、缶詰食がほとんどであった。

【臨床所見および血液検査所見】

臨床所見は、体重減少(78%)、頻脈(66%)は多くの症例で一般的であった。甲状腺の触知が可能であった症例は約6%であった。血液化学検査においてAST,ALTおよびALPの酵素活性の上昇していた症例の頻度は、ASTは22%,ALTは63%、ALPは81%であった。また、これら3つの酵素いずれかが上昇している頻度は88%であった。

【診断】

診断は、血清サイロキシン濃度(T4)の測定(エイミス)を行い。基準値(0.7〜3.5μg/dl)より高値であることから確定診断をおこなった。症例のT4は基準値よりやや高いものから高値(3.6〜19μg/dl)を示すものまで様々であった。

【治療および結果その?(導入)】

 治療は抗甲状腺薬チアマゾール、商品名メルカゾール5mg錠を使用した。導入の投与量は、ほとんどの症例がチアマゾール0.83mg1日2回、1.25mg1日2回および2.5mg1日2回の3群のいずれかで行った。図1に治療前とチアマゾールで導入した約30日後のT4の推移をそれぞれの群に分けて示した。なおこの結果はいずれの症例も投薬が確実にされたと判断した症例で、治療後約30日でT4の確認ができた11症例の結果を示した。0.83mg1日2回の投与群では治療前T4が8以下の症例は基準値までT4を抑えたが、治療前が8以上の症例は、抑えることが出来なかった。1.25mg1日2回の投与群では治療前、T4が14以上とかなり高い症例においても反応が見られたが、基準値まで抑えられた症例はなかった。2.5mg1日2回の投与群では治療前T4が16以上の症例を基準値まで抑えたが、治療前が8.6の症例は検出限界以下まで抑えることもあった。

図1.治療前とチアマゾールで導入した約30日後のT4の推移

【治療および結果その?(長期の治療)】

 1年以上チアマゾールで治療を続けた5症例の経過について、2例の症例は、チアマゾールの増量なく基準値範囲内にT4を抑えたが、他の3症例はT4を抑えるため治療期間が経過すると共にチアマゾールの増量が必要であった。

【治療経過】

甲状腺機能亢進症と診断した猫36例のうち2例を除く34例が抗甲状腺薬チアマゾ−ルによる治療を行った。全体の約25%の9例は治療を開始したがその経過は不明であった。治療を開始して経過観察できた症例は全体の約70%であり、これらの症例はチアマゾールに反応し、また一部の症例は投与量の調節を行うことにより、最終的にはT4の低下がみられ、体重減少などの症状が改善された。現在50%の18例は、治療継続中である。この中で現在まで20%の5例が死亡した。死亡原因は腎疾患が3例、腫瘍疾患が2例であった。
また、チアマゾールによると思われる副作用は治療を開始した症例の約20%の7例で発現した。内容は、食欲低下が2例、消化器症状3例、顔面の掻痒が2例であった。いずれの症例もチアマゾールの休薬を行い、治療の再開が可能であった。

【考察】

本症の発生についてアメリカでは様々な研究がなされてきたが、近年では猫用缶詰食を好む猫での発生率が高いとの報告が多くみられる。アメリカでは1965年頃に猫用缶詰食が普及しはじめ、その後15年から20年後に発生の増加がみられた。当院の地域では1985年頃に猫用缶詰食が普及し始めた。その15年から20年後の現在に罹患頭数の増加が見られ。したがって、近年の発生の増加は食事との関与を考慮する必要があると思われるが、これらを明らかにするためには症例数の蓄積と、幼少期からの食事歴の調査が必要と考えられた。

臨床所見は、アメリカでの報告と同様の所見およびその割合であったが、甲状腺の触知に関しては異なる結果であった。アメリカの報告では90%の症例で甲状腺の触知が可能であるのに対して、今回の結果を含め日本での報告例は、その割合は低いものであった。血液化学検査では特にAST、ALTおよびALPについてはこれまで90%の症例にいずれかの酵素値の上昇がみられると報告されている。今回の結果も同様の結果が得られ、特に今回はALPの上昇していた症例の割合が高く、高齢猫で体重減少およびALPの上昇している猫には本症に対する検索が必要と思われた。

治療は、今回使用したチアマゾールによる導入量はT4が8以下では0.83から1.25mgを1日2回、T4が8以上では1.25から2.5mgを1日2回、の投与が適当であると思われた。また長期の維持には定期的な検査が必要であり、臨床所見、T4の値にあわせた内服薬の調節が必要であると思われた。

今回チアマゾールに反応がみられなかった症例はなく、その経過も良好であると考えられが、経過が不明の症例が25%もあり、また、抗甲状腺薬による治療は2年から3年が限界であるともいわれている。そのため今後、抗甲状腺薬以外の治療法、特に外科的な切除についての検討も必要と考えられた。


 

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