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動臨研カンファレンス

術後1年9ヶ月で小脳に転移を認めた犬乳腺癌の1例 2004年5月

橋本志津 岡田みどり 山村穂積(北川動物病院/東京都)

【はじめに】

 犬の乳腺腫瘍は雌犬に最も多発する腫瘍であり、悪性乳腺腫瘍は高率に転移をするといわれている。悪性乳腺腫瘍である乳腺癌で主に転移を示す臓器は、肺および領域リンパ節が挙げられる。そのほかにも副腎、腎臓、肝臓、脾臓、心臓、骨、眼、鼻および脳などの臓器にも転移を示すとされているが、これらの臓器に転移をした場合の臨床所見については明確に示されていない。本症例は、犬の乳腺癌を摘出した症例のうち術後としては長期である1年9ヵ月後に小脳に転移を認めた例のケースレポートである。

【症例】

 10歳9ヶ月、マルチーズ、雌。突然の起立困難を伴う運動失調および頭部の左側への傾斜を認めた。小脳あるいは小脳近傍での炎症、腫瘍、および血管障害を疑い、プレドニソロン1mg/kgBID mg/kgBID VB1612によって加療したが、改善は認められなかったため、CT断層撮影を行った。CT画像所見では、右側小脳に直径2cmの結節性病変を認め、小脳腫瘍であると仮診断した。症例は、飼い主の希望と同意によって安楽死処置を施し、脳の解剖および病理組織学的診断を実施した。

【小脳病理組織学的所見】

 小脳内に充実した腫瘍組織の浸潤増殖を認め、核分裂多数の胞巣状をなす不明瞭な腺腔形成が認められた。

【病歴】

 症例は9歳時に乳腺癌の摘出を行っていた。発症部位は、左側第4〜5乳腺領域に直径3.5cmおよび右側第3〜4乳腺領域に直径0.5cmの乳腺腫瘍を認めた。このため両側第3〜5乳腺領域および鼠径リンパ節を摘出した。

【乳腺病理組織学的所見】

 9歳時の症例の乳腺腫瘍は、異型性の強い乳腺上皮細胞が多数の核分裂像を伴い不規則な腺管構造を形成していた。さらに出血および壊死を伴って浸潤増殖していた。乳腺腫瘍の病理組織学的診断名は乳腺癌であった。また、鼠径リンパ節では、乳腺癌の浸潤が認められることから、乳腺癌のリンパ節転移であると診断された。

【診断】

 以上、CT画像所見および小脳と乳腺の病理組織学的所見が同様の増殖形態であることから、本症例の脳剖検後の病理組織学的診断名は、乳腺癌の小脳転移(転移性乳腺腫瘍)であることが明らかになった。なお、剖検時の本症例において、乳腺部での再発および他臓器への転移は認められなかった。

【考察】

 悪性乳腺腫瘍は脳に転移を起こすことが知られているが、その臨床所見については明らかにされていない。今症例では、転移性乳腺腫瘍の臨床症状として、小脳障害の症状である運動失調および頭部傾斜を認めた。さらに小型犬であるマルチーズの小脳内において直径2cmになるまで無症状であったことが示唆された。また今症例では、悪性乳腺腫瘍の予後不良である場合の平均生存期間である1年未満を大幅に上回る1年9ヶ月の生存が認められた。これには、症例の主病巣が小脳であったため、潜在的な無症状期間が長く、かつ突然の発症であったのではないかと考えられる。さらに、脳内における腫瘍の転移メカニズムは血行性であることからも長期生存が可能であったのではないかと考えている。
 さて、人では、転移性脳腫瘍の発生部位は大脳がほとんどであり、小脳での発生は18%とされている。また、その発生形態は、単発性あるいは多発性とさまざまであることからも、今症例の転移主病巣が大脳であった場合には、臨床所見や生存期間もまた異なったものとして観察された可能性が示唆された。
 いずれも、さらなる症例の集積が臨まれ、かつ脳腫瘍としての観点からも転移は1つのカテゴリーとして確立されるべきであると考えている。


 

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