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動臨研カンファレンス

猫の副腎機能低下症の2症例 2004年4月

窪田出、長澤昭範、山村穂積(北川動物病院/東京都)

【はじめに】

猫の副腎皮質機能低下症は稀な疾患である。この疾患は原発性と二次性に大別される。原発性は副腎皮質の破壊によって、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイド両方の分泌が不足する。猫では数例の報告がある。二次性は下垂体でのACTHの分泌が不足することによって起こり、主に副腎皮質からのグルココルチコイドの分泌が不足する。猫では医原性のものの報告はあるが、自然発生性のものは報告がない。今回当院において、ACTH刺激試験および血漿ACTH濃度測定の結果から、二次性副腎皮質機能低下症を疑い治療を行った猫の二症例に遭遇したのでその概要を報告する。

【症例】

●症例1

雑種猫、9歳齢、雌(避妊済)、予防歴なし、既往歴なし

主訴/元気消失、食欲低下、多飲多尿

一般身体検査所見/体重3.84kg、体温37.3℃、軽度脱水

臨床検査所見/非再生性貧血、BUNおよびCreの軽度上昇、等張尿(表1)。

経過:第1〜27病日/腎疾患を疑い、治療として週2〜3回の皮下補液を行った。

経過:第28病日/横たわり、動けなくなったということで来院した。身体検査では意識レベルの低下が認められ、股脈触知はできず、体温は35℃だった。血液検査で低血糖が認められたことから、低血糖性の虚脱であると判断し、糖の静脈内投与、糖新生のためのグルココルチコイド投与、および状態維持のため補液を行った。症例はこれらの処置に反応し、状態の回復が認められた。

症例1の再評価/非特異的な臨床症状に加え低血糖を示したということから、副腎皮質機能低下症を除外するためにACTH刺激試験および血漿ACTH濃度測定を行った。試験に際してはステロイドを漸減・中止してから1か月の間隔を開けて実施した。

ACTH刺激試験の結果/ACTH投与前の血漿コルチゾール濃度は基準値より低く、ACTH投与後30分および60分でもほとんど反応が認めらなかった。また血漿ACTH濃度は基準値を下回っていた(表2)。

臨床診断/二次性副腎皮質機能低下症

治療/グルココルチコイドとしてプレドニゾロンを1mg/kg SIDで使用した。状態維持のために週2〜3回の皮下補液を行った。

経過:第29病日〜/治療開始後約一か月は状態を維持することができた。しかし、その後、食欲低下、体重減少が認められ、末期には意識レベルの低下した状態が続き、第166病日に死亡した。

●症例2

雑種猫、13歳齢、雄(去勢済)、予防歴なし、既往歴なし

主訴/体重減少、多飲多尿、元気消失

一般身体検査所見/体重3.15kg(前回診察時から約600g減少)、体温38.8℃、脱水、削痩、膿性鼻汁。

臨床検査所見/白血球数上昇、非再生性貧血、ウイルス検査ではFeLV陽性が認められた(表1)。

経過:第1〜6病日/原疾患が特定されるまで、皮下補液と抗生物質を使用し経過観察を行った。

経過:第7病日/痙攣発作を主訴に来院した。血液検査では低血糖、血清カリウム値の低下が認められ、低血糖性の発作であると判断し、糖の静脈内投与、糖新生のためのグルココルチコイド投与、および状態維持のため補液を行った。

症例1の再評価/非特異的な臨床症状に加え低血糖を示したということから、副腎皮質機能低下症を除外するためにACTH刺激試験および血漿ACTH濃度測定を行った。

ACTH刺激試験の結果/ACTH投与前の血漿コルチゾール濃度は基準値より低く、ACTH投与後30分および60分ではわずかな反応しか認めらなかった。また血漿ACTH濃度は基準値を下回っていた(表2)。

臨床診断/二次性副腎皮質機能低下症

治療/グルココルチコイドとしてデキサメタゾンを0.1mg/kg SIDで使用した。状態維持のため補液を行った。

経過:第8病日〜/症例は、治療開始後血糖値のコントロールをすることはできたが全身状態は改善しなかった。最終的には右旋回、瞳孔不対称などの神経症状を呈し第16病日に死亡した。

【考察】

今回、ACTH刺激試験および血漿ACTH濃度の結果から二例とも二次性副腎皮質機能低下症と診断した。しかしこの疾患は猫では報告が無く、経過・治療の比較検討ができなかった。
 一般的に副腎皮質機能低下症は食欲低下、元気消失、体重減少などをはじめとした非特異的症状を主訴とすることが多いため比較的早期診断の難しい疾患である。この疾患を疑う最も特徴的な所見として高カリウム、低ナトリウム、低クロール血症などの電解質異常があげられる。しかし電解質異常は犬の原発性副腎皮質機能低下症では顕著だが、猫の原発性副腎皮質機能低下症では犬よりも認めにくいとされており、さらに犬猫とも二次性副腎皮質機能低下症の場合には、ミネラルコルチコイドが不足しづらいため電解質異常が明らかではない。このことはこの疾患の早期診断をより困難にしていると考えられる。今回は二例とも典型的な電解質異常は認められず、低血糖になり状態が悪化してから副腎皮質機能低下症を疑うことになった。
 猫の原発性副腎皮質機能低下症は、ステロイド療法により予後がよいとされており、平均生存期間が34か月という報告もある。一方、二次性副腎皮質機能低下症については予後のデータはないが、今回の二症例では、症例1は166病日、症例2は16病日と、原発性で報告されているものに比べて予後が良くなかった。理由として、二例とも神経症状を示していたということから、下垂体不全を引き起こす場合には根底に何らかの脳疾患が存している可能性が高く、そのためグルココルチコイド不足以外の因子が、状態のさらなる悪化を招くからではないかと推測された。
 以上のことから、副腎皮質機能低下症は初期診断が難しいが、原発性であれば予後が良いことからも非特異的症状を示す猫では常に考慮する必要があると思われた。また、電解質が正常であっても副腎皮質機能低下症をすぐに除外してはいけないことを再認識させられた。さらに猫では同じ副腎皮質機能低下症でも、原発性と二次性では病態と予後が異なる可能性があり、この両者を鑑別することも臨床的に意義があると思われた。
 猫の副腎皮質機能低下症はまれであり二次性のものについては正式な報告がないが、今回の二症例との比較検討のためにも、今後の症例報告などに注目していきたいと思う。

(表1)症例の血液検査所見
  症例1 症例2
WBC (/μl) 7500 19400
RBC (x106/μl) 4.99 4.08
PCV (%) 24 21
Hb (g/dl) 8.8 8.3
MCV (fl) 52.7 66.4
MCHC (%) 33.5 30.6
Plat (x103/μl) 28 12.2
Na (mEq/l) 146 150
K (mEq/l) 3.5 3.3
Cl (mEq/l) 113 121
Ca (mg/dl) 10.1 9.1
P (mg/dl) 3.7 5.4
BS (mg/dl) 72 79
TP (g/dl) 7.8 6.6
Alb(g/dl) 2.6 2.2
AST (U/l) 46 54
ALT (U/l) 32 52
ALP (U/l) 44 46
BUN (mg/dl) 37 24
Cre (mg/dl) 3.9 1.3
T4 (μg/dl)(基準値0.7〜3.5) 0.8 1.2

(表2)ACTH刺激試験および血漿ACTH濃度測定結果
ACTH刺激試験結果 血漿コルチゾール濃度 (μg/dl )( 基準値 0.9〜7.1 )
測定時間 症例1 症例2
投与前 0.21 0.52
投与後30分 0.26 1.23
投与後60分 0.25 1.53
 
血漿ACTH濃度測定結果( 基準値 4〜36 )  3.0 pg/dl 3.55 pg/dl

 


 

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