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動臨研カンファレンス

犬の肝細胞癌7例の検討 2004年3月

福永大督 橋本志津 山村穂積(北川動物病院/東京都)

今回、1996年4月から2004年3月までに当院にて肝細胞癌と診断された犬7症例について臨床症状・診断・治療・経過などに考察を加えて報告する。

【はじめに】

犬の肝細胞癌は、肝臓の悪性腫瘍の中で最もよく見られる疾患である。犬は他の動物に比べ、肝細胞癌の発生率が高いとされ、10万頭に1.6頭の発生率で、犬の全腫瘍の中で0.6〜1.5%を占めると言われている。好発犬種はなく、羅患した犬の平均年齢は10〜12才と報告されている。雄の方が発生のリスクが高いと言われ、臨床症状は、様々で非特異的なものが多く、食欲不振・元気消失・嘔吐・多飲多尿がよく認められる。その他にも体重減少・発作・腹水貯留・下痢・黄疸などが認められることがある。また、大部分の犬では、腹部膨満と触知可能な肝腫大が認められる。本疾患の治療は有効な化学療法が報告されていないため、一般開業医においては、外科的摘出(肝葉切除術または肝部分切除術)が第一選択である。予後については、腫瘍自体が限局的な場合は完全な外科的切除が可能で予後が良好とされている。18頭の孤立性の肝細胞癌の犬に肝葉切除術を行ったKososvskyらの報告によれば、報告の時点で既に8頭が死亡しており、その平均生存期間は308日、残り10頭はまだ生存しており、その平均期間は377日であった。その一方で、転移の見られない動物においての外科的摘出後の生存期間は80日未満であったとの報告もある。犬での術後の転移の発生率は61%とされている。転移は肺と肝門リンパ節に生じやすいが、血流により心臓、脾臓などへ転移も生じ、大網、腹膜への広がりも起こる。原発の腫瘍の大きさに関わらず、転移巣は小さいことが多いため、注意が必要である。

【材料】

症例:当院で1996年4月から2004年3月までに病理組織検査によって肝細胞癌と診断された犬7頭について検討した。
これらの症例の主訴、症状、年齢、性別、生存日数などについて検討した。
臨床検査:血液検査では特に貧血の有無、特にAST、ALT、ALP等を検討した。
治療:外科的摘出を行った症例、行わなかった症例それぞれについて検討した。

【結果】

品種:雑種2例、シーズー2例、ビーグル1例、M・ダックス1例、ケアンテリア1例であり、好発犬種は認められなかった。
性別:雄4例、雌3例であり、雌雄差は認められなかった。 
発症年令:14才3例、11才2例、9才1例、10才1例であり、平均年齢:11.9才であり、比較的高齢の動物での発症であった。
来院時の臨床症状:元気消失5例、食欲不振4例、下痢・軟便3例、腹部膨満3例、体重減少2例、多飲多尿1例、ふらつき1例、嘔吐1例、黄疸1例であった。そのほとんどが非特異的症状であった。
外科的摘出:全症例で開腹を行ったが、外科的摘出を行ったのは5例で、残り2例は肝生検のみ行った。外科的摘出した5例のうち完全切除できたものは2例であり、残り3例は不完全切除であった。
血液検査:全7症例においてALT・ALPの上昇を認めた。ASTは、7例中4例で上昇を認め、貧血は7例中2例認められた。
画像診断:X-ray、超音波検査において全症例に肝腫大(肝臓のmass陰影)を認めた。
術後の生存期間:その範囲は、0〜880日であった。

【まとめ】

肝細胞癌の平均発症年齢は10−12歳と報告されているが、今回のわれわれの報告した7症例においても平均発症年齢は11.9歳であり、報告されているデータとほぼ同様の結果が得られた。
成書には発症はオスのほうがリスクが高く、好発品種はないとされているが、今回の調査では成書とは異なり、性差は認められなかったが、好発品種がなかった点は一致していた。
初診時の症状は、元気消失、食欲不振などそのほとんどが非特異的なものばかりで、肝細胞癌特有の症状は認められなかった。
血液検査では全症例でALT・ALPの上昇を認めた。

【考察】

今回の調査では、症例数が少ないことから性差、好発品種の傾向は今後とも調査する必要があると思われる。
症例5、症例6ではそれぞれ外見上の腹部膨満と体重減少以外の臨床症状を認めなかったが、これは肝臓の予備能力が大きいため、病気がかなり進行するまで、臨床症状を発現しにくいからだと思われた。
このことが肝細胞癌の発見を遅らせ、早期での診断を難しくしていると思われた。
今回の調査では、ALT・ALPの上昇は肝細胞癌の診断に有意なファクターであると思われた。ただし、ALT・ALPの上昇は肝細胞癌だけでなく、他の肝疾患を含むその他多くの疾患でも上昇するため、類症鑑別が重要になる。類症鑑別は、年齢、性別、品種などを考慮することはもちろん、その他、超音波検査における肝細胞癌の典型的パターンの検出、αフェトプロテインの測定、超音波ガイドによる経皮的肝生検など侵襲性の低い検査を行うことが考えられた。
また、ALT・ALPの上昇の程度は様々であるが、そのことが臨床症状と予後にはあまり影響しないものと思われた。
治療は症例1のように不完全切除であっても、長期間生存する症例も見られ、切除方法に関係なく、腫瘍の容積を減らすことにより症状を軽減させ、延命できる可能性があると思われた。
このように対症的に治療するために腫瘍切除を考える価値があると思われるが、症例4、5のように切除困難と判断し、切除せずに200日以上生存していることも興味深い点であった。
症例7は、腫瘍が大きく、切除が困難と判断した症例だったが、飼い主の希望により手術を実施した。手術後すぐに死亡したのは、おそらく腫瘍を切除した後に急激に血圧低下が起こったためだと思われた。
このことからも手術に耐えられる状態かどうかを見極めることが大切であると思われた。
臨床症状が現れる頃には、切除困難なほど腫瘍が大きくなっていることも多いため、できる限りそうなる前に発見し、治療を開始するためにも、老齢動物における肝酵素のモニターを含めた定期的健康チェックと腹部超音波検査を行うことが重要であると思われた。

 


 

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