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動臨研カンファレンス

心膜炎に伴い乳び胸を呈した犬の1例 2004年1月

西野亜紀 弓削田直子 岡田みどり 山村穂積(北川動物病院/東京都)

【はじめに】

 乳び胸は、乳び液が胸管から胸腔内に漏れでた状態であり、臨床的には稀な疾患である。その原因としては、外傷性、非外傷性(胸郭の腫瘍、心疾患、肺葉捻転など)、特発性に分類されているが、動物では原因が特定できない特発性乳び胸と診断されることがほとんどで、治療に苦慮しているのが現状である。今回、心膜炎に伴って起きたと思われる乳び胸の一例に遭遇し、心膜切除術および胸腔腹腔シャント術を行ったので、その概要を報告する。

【症例】

 症例は、柴犬、雄、3歳齢、体重9.6kg、混合ワクチン未接種、フィラリア予防は毎年行っていた。3週間前より呼吸が促迫であり、食欲不振、下痢が続いていることを主訴に来院。

【初診時身体検査所見】

 軽度削痩、呼吸促迫が認められ、心音の聴取が困難であった。

【初診時血液検査所見】

 異常は認められなかった。

【X線検査所見】

 心陰影が不鮮明であり葉間裂が見られることから、胸腔内液体貯留が示唆された。胸腔穿刺にて、胸水が500ml抜去され、その性状は乳白色でTP5.2g/dl、血清に比べ多量の中性脂肪を含むことから乳び液であることがわかった。細胞診では、小リンパ球が主体であり異型細胞は認められなかった。

【超音波検査所見】

 EF41.4%、FS19.5%であり、心機能の低下が示唆され、後大静脈の拡張も認められた。心臓の形態的な異常は認められなかった。
 以上の所見から、特発性乳び胸あるいは心膜拘束による乳び胸を疑った。

【治療と経過】

 症例は、第1病日よりドパミンの点滴を行った。第5病日、下痢は続いていたが食欲の回復が見られたため、強心剤、利尿剤、抗生剤、整腸剤の内服を開始し、点滴を中止した。しかし、第9病日には再び食欲廃絶にて来院、内服困難とのことでドパミン点滴を再開した。第21病日まで内科療法を続けたが、全身状態が徐々に悪化し、持続的な胸水の貯留も見られたため、内科的管理が困難と判断し外科的治療を行った。なお、本症例では食事療法は困難であった。

【手術所見】

 右側第5肋間より開胸したところ、多量の胸水の貯留と心膜の著しい肥厚を認めたため、心膜切除を行った。横隔神経より腹側で心膜に切開を加え、電気メスにて横隔神経に対して平行に切開を拡げ、心膜を一周させた。切除した心膜は病理組織学的検査を行った。
 また、胸腔腹腔シャント術も実施、ポンプ機能のついた特殊なカテーテルを、胸腔内から皮下、腹腔内に設置した。本症例では、第8肋間から胸腔内に、腹部正中より腹腔内にカテーテルを挿入した。

【術後経過】

 術後は抗生剤の投与のみを行った。術後1日目より食欲が回復し、術後5日目心エコー検査を行ったところ、EF50.5%、FS24.7%と心機能の改善も見られた。また、術後5日目には下痢の改善も認められた。術後1週間目のレントゲン検査でわずかな胸水の貯留はあったが、呼吸状態は安定しており状態は良好に経過した。術後1ヵ月現在、少量の胸水を定期的にポンプ圧迫により抜去しているが、下痢もなく一般状態は良好である。

【心膜病理組織学的診断】

 異型細胞を含む心膜炎。心膜は周囲脂肪組織に軽度の変性を炎症が起きているため、心膜炎により結合組織性肥厚が起きていると思われたが、一部に認められた異型細胞からは悪性中皮腫の存在を考慮する必要が考えられた。

【考察】

 本症例は、心膜肥厚により静脈圧が上昇して乳びの漏出が起きたと推測された。そのため、心膜切除が静脈圧の緩和につながり有効であったと考えられる。現在、乳ビ胸が起こる病態は、単純な胸管破裂ではなく、何らかの原因により静脈圧が上昇して発症することが提唱されており、特発性乳ビ胸に心膜切除が有望だと言われている。本症例は、心膜拘束による乳び胸と特発性乳び胸の両方の可能性が示唆された。
 本症例では強心剤や利尿剤など内科療法はあまり有効ではなく、心膜疾患が疑われる場合には、積極的に心膜切除を考慮するべきだと思われた。ただし、心膜炎が腫瘍性の場合には予後は不良である。今回、病理組織学的検査で中皮腫を疑う所見があり、術後に少量の胸水が持続していることからも予後には注意が必要であるが、QOLの改善が得られたと思われる。下痢の原因は明らかにならなかったが、術後改善が見られたことから、リンパ管拡張あるいは循環障害による消化管障害が続発していたことが推測される。心膜拘束では、腹水と頚静脈拡張が最もよくみられる臨床徴候だが、それらが発現しなかったことが不明な点として残った。
 乳び胸は多くの基礎疾患が原因として確認されている複雑な疾患であり、乳び胸の管理には、できれば原因の究明とその基礎疾患の治療に向けられるべきであるということを痛感した。今回の症例は、いずれも確定診断の難しい疾患が絡み合った複雑な病態が考えられ、今後注意深く経過を観察する必要がある。


 

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