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動臨研カンファレンス

多発性骨髄腫の犬の1例 2003年9月

吉村良美 弓削田直子 橋本志津 岡田みどり 山村穂積(北川動物病院/東京都)

多発性骨髄腫は、骨髄の形質細胞に腫瘍性増殖が見られる疾患で、腫瘍化した形質細胞がM成分といわれる免疫グロブリンの1型の過剰産生を起こす。犬においてはこの免疫グロブリンはIgAやIgGがほとんどであるといわれている。今回我々は、高γグロブリン血症を呈し、骨の融解像が認められた多発性骨髄腫と思われる症例に遭遇したので報告する。

【症例】

甲斐犬 オス、16歳11ヶ月

【主訴】

1週間ほど前より動作緩慢、二日前から嘔吐と食欲不振。来院当日には食欲廃絶。

【身体検査所見】

体重:14.7kg、体温:38.6度、心拍数:136回/分。来院時、意識はあるものの横臥状態。口腔内には歯石が附着、歯肉出血。

【臨床検査所見】

CBC(表1):正球性生色素性の貧血、血小板の減少が認められた。ニューメチレンブルー染色により非再生性貧血が示唆された。

血液生化学検査(表2):アルカリホスファターゼ値の上昇、血清総蛋白値の上昇、A/G比の減少、血清Ca値の上昇が認められた。

蛋白分画の検査:γグロブリンの著しい上昇がみられた(表3)。免疫電気泳動で、γグロブリンのスパイクの成分はIgAであることが確認された。

X線検査:胸椎の棘突起に融解像

表1 血液検査所見
WBC 78 102/μl
RBC 460 104/μl
Hb 10.0 g/dl
HCT 28.7
MCV 62.4 fL
MCH 21.7 pg
MCHC 34.8 g/dL
PLT 10.0 104/μl

表2 生化学検査所見
T-BIL 0.1 mg/dl
GOT 40 104/μl
GPT 50 IU/L
ALP 794 IU/L
LDH 683 IU/L
γ-GTP 3I IU/L
CK 408 IU/L
TP 11.8 g/dl
A/G比 0.2  
T-CHO 106 mg/dl
TG 10 mg/dl
Cre 1.5 mg/dl
BUN 37 mg/dl
Na 146 mEq/L
K 3.9 mEq/L
Cl 104 mEq/L
Ca 15.03 mEq/L
P 5.4 mEq/L

表3 血液検査所見

総蛋白/11.8 g/dl
A/G比/0.2
蛋白分画
アルブミン/21.8 %
γグロブリン/66.2 %
PCV/28.7 %
PLT/10.0 ×104 / ul
血清Ca値/15.03 mg/dl

表4 血液検査所見

総蛋白/7.6 g/dl
A/G比/1.02
蛋白分画
アルブミン/50.4%
γグロブリン/25.1 %
PCV/34.9 %
PLT/40.1 ×104 / uL
血清Ca値/10 mg/dl

【治療と経過】

 治療は化学療法と輸液、抗生物質投与などを中心とした支持療法を行なった。
 第1から5病日は入院にてステロイドの投与(2mg/kg)と輸液療法を行った。その後起立可能となり、食欲も回復し、嘔吐も見られなくなったため、第6病日より通院での治療とした。第6から22病日までは連日もしくは隔日の輸液を行った。第19病日よりステロイドの量を半減し(1mg/kg)、メルファランの投与を開始した。
 第97病日までは経過が良好であった。第1病日ではγグロブリンは66.2%と高値で、A/G比も低く、貧血も見られ、高カルシウム血症も認められた(表3)。しかしながら、血清総蛋白濃度においてははステロイドを投与してから減少し始め、その後、正常範囲で維持することができた。 PCVも第5病日までは減少が認められたが、総蛋白質濃度が正常範囲に維持されるとともに上昇した。第27病日には表4のように改善がみられた。そのため徐々にステロイドの投与量の漸減を行った。しかし第97病日ステロイドの投与を中止して1週間でPCV、血小板の著しい減少、食欲低下、ふらつきなどが認められたため、ステロイドの投与量を1mg/kgで再開した。その後一時期PCVの上昇が認められたが、第117病日より再び、食欲低下、飲水量、尿量の低下がおこり、総蛋白値の若干の上昇著しい貧血、血小板の減少、BUNの上昇がみられた。そのためこの日より、ステロイドの投与量を2mg/kgに増量するとともに、輸液療法を開始したが、貧血、血小板の減少は進み、症状の悪化がみとめられた。
 第128日目には全身状態の悪化が認められたため、ステロイドの投与量を4mg/kgに増量したが、第141病日死亡した。

【まとめ】

 本症例は、IgAを主体とする高γグロブリン血症、骨の溶解性病変があり、それに伴う高カルシウム血症、貧血、血小板の減少が認められたため、多発性骨髄腫と診断した。免疫電気泳動は本症例においては非常に有用な検査であったと思われた。
 多発性骨髄腫の犬への、メルファランとステロイドを用いた化学療法は有用であると言われているが、本症例においてはステロイドの投与により、血清総蛋白質量の低下が認められ、PCVも上昇し、臨床症状の改善がみられたが、ステロイドの投与を中止した後1週間後の第97病日より、PCVの低下、血小板の減少臨床症状の悪化が認められたことから、ステロイドの投与が特に有用であったと考えられた。
 しかしながら非常に高齢の犬に対しステロイドの投与により、十分なQOLが得られたものと考えた。
 多発性骨髄腫の予後は、高カルシウム血症、BJ蛋白の有無、骨溶解病変の有無に関連するといわれているが、今回の症例では、 尿中にBJ蛋白は認められなかったものの、高カルシウム血症と広範囲に渡った骨溶解病変が存在し、予後に影響を与えたものと考えた。


 

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