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動臨研カンファレンス
犬、猫の糖尿病管理における
血清フルクトサミン濃度測定とその利用 2003年7月
白神久輝 山村穂積(北川動物病院/東京都)
【はじめに】
持続性の高血糖と尿糖が存在した犬3症例猫1症例に対し、インスリン依存性糖尿病と診断し、インスリン療法を行った。犬、猫の糖尿病において、インスリン治療の調節が必要かどうかは糖尿病の臨床症状(多飲多尿、多食、体重減少、元気消失)、血中グルコース濃度曲線、身体検査所見、グルコシル化ヘモグロビン、血清フルクトサミン濃度、飼い主の治療への満足度に基づいて決定される。
本院では今までインスリン治療の調節を血中グルコース濃度曲線と糖尿病の臨床症状と飼い主の治療への満足度に基づいて行ってきた。今回我々はこの評価に加えて、血清フルクトサミン濃度測定を行うことにより、2〜3週間前からの血糖コントロールを見通すことが可能になり、インスリン投与量調節の一助になると考えた
よって今までの評価に加え、糖尿病の犬、猫における血清フルクトサミン濃度解釈のガイドラインを参考に血清フルクトサミン濃度測定を行いインスリン投与量を調節した。
その結果インスリン療法と自宅での管理状態の評価に有意義な結果が得られたので報告する。
【血清フルクトサミン濃度測定とは】
フルクトサミンは血清中のタンパク質のアミノ基にグルコースが非酵素的に結合した糖化蛋白でその結合構造がフルクトースに似ているのでフルクトサミンと呼ばれている。
このように、フルクトサミンは糖とタンパクとの非酵素的な反応生成物に対して用いられる用語だが、一般に血中の糖化蛋白とみなされ検査においては血中のアルブミンとグロブリンの糖化されたものを比色定量法で測定している。
血清フルクトサミン濃度は過去2、3週間前からの平均血中グルコース濃度の指標になるが、これは血中タンパクの半減期がほぼ2週間であるのに相当するからである。
血清フルクトサミン濃度は糖尿病で血糖コントロールの悪化を検出するのに有用である。
血清フルクトサミン濃度の解釈方法 FRT濃度(umol/L)
| 血糖コントロール |
犬 |
猫 |
| きわめて良好 |
400 |
<350 |
| 良好 |
400〜500 |
350〜450 |
| ふつう |
500〜650 |
450〜600 |
| 不十分 |
>650 |
>600 |
糖尿病の犬、猫における血清フルクトサミン濃度解釈のガイドラインである。
今回私たちは血中グルコース濃度曲線、臨床症状の他に血清フルクトサミン濃度を測定し、このガイドラインを参考に評価を行い<きわめて良好>な管理を目標にインスリンの投与量を決定した。
【症例1】
11才6ヶ月齢の雌の柴犬。多飲多尿、尿糖およびケトン尿、高血糖の所見より、糖尿病性ケトアシドーシスと診断し、治療を開始した。
○症例1の治療経過
食事療法と飲水量測定を指示したが、普段の食事以外は全く受け付けず、食事の変更は不可能であると判断した。入院による血糖管理、輸液を試みたが、重度なストレスになり不可能であった。
80病日までは中間型インスリンを徐々に増量し、朝9時に12単位、21時に7単位投与し同時に食事を行うように指導し、その結果日中の血中グルコース濃度曲線の下降は十分であり臨床症状の軽減がみられた、飼い主はこの治療に満足していた。
血清フルクトサミン濃度測定結果は492umol/lであり、値は下がったが不十分と判断し夜間の血中グルコース濃度曲線を作成したところ血糖値の下降は不十分で、日中の血中グルコース濃度曲線は十分下降している為、夜間のインスリン投与量不足と推測し、夜間の血中グルコース濃度曲線を作成したところ血糖値の下降は不十分であったため夜間のインスリン投与量を10単位へ増量しました。
100病日の血清フルクトサミン濃度は375umol/lに下降し、臨床症状はさらに軽減し活発に行動するようになった。
【症例2】
12才2ヶ月齢、雌のイタリアングレーハウンドである。
多飲多尿、尿糖、高血糖より糖尿病と診断し、治療を開始した。
○症例2の治療経過
食事療法としてw/dのみでの管理を指示した。
飼い主の希望で一日一回のインスリン注射で管理を行いました。
中間型インスリンを朝7時に2単位投与し同時に食事を行うように指導し、臨床症状の軽減がみられ、40病日に血清フルクトサミン濃度が410umol/lであり、日中の血中グルコース濃度曲線作成したところ血糖値の下降が不十分であったため、インスリン投与量を2Uから3Uへ増量した。
60病日の血清フルクトサミン濃度は336umol/lであり血中グルコース濃度曲線の下降も十分であるため中間型インスリン一日一回投与で管理の継続を指示した。
現在まで投与量の変更はなく良い管理が出来ている。
【症例3】
9才、雄のミニチュアシュナウザーである。
多飲多尿、尿糖、高血糖の所見より糖尿病と診断し、治療を開始した。
○症例3の治療経過
食事療法としてw/dのみでの管理を指示し、飲水量の測定を指示した。
インスリン療法は60病日までは中間型インスリンを朝9時に9単位、21時に8単位投与し同時に食事を与えるように指導した。その結果、血清フルクトサミン濃度は384umol/lであり、臨床症状の軽減し、血中グルコース濃度曲線の下降も十分であった。
この所見よりこの投与量で管理することとした。
しかし80病日に定期的な血清フルクトサミン濃度測定を行ったところ550umol/lに増加しており、飲水量の増加もみられた。血糖値の下降が不十分であることを予測し、24時間の血中グルコース濃度曲線を作成したが、大きな血糖値の下降不足は認められなかった。以上の結果よりインスリン投与量の不足以外の問題点がないかの確認のため再度管理状態を飼い主に確認したところ、3週間前より市販のウェットフードを加えていたため、再度食事管理の徹底を指示した。
食事管理の徹底から3週間後の血清フルクトサミン濃度は390umol/lに下降し、飲水量の減少も認められた。その後は現在まで良い管理が出来ている。
【症例4】
11才、雌の猫である。
来院4ヶ月前に他院にて糖尿病との診断が下り、食事療法のみで管理を行っていた。
主訴は低体温、尿量減少、昏睡、食欲廃絶、嘔吐であった。
主訴と尿糖およびケトン尿、高血糖から糖尿病性ケトアシドーシス及び昏睡状態にあることが推測され全身状態の改善をはかるために緊急入院となった。
○症例4の治療経過
レギュラーインスリン、輸液による治療によって、入院6日目に意識回復、食欲改善し10日目に退院となった。
インスリン要求量が安定せずインスリン単位数、種類の変更を加え60病日に長時間作用型インスリン朝8時2U夜8時2U投与で安定した。
食事は糖尿病療法食をインスリン注射時に与えるように指示した。
インスリン療法開始より4ヶ月目に飲水量が減少し、血中グルコース濃度曲線にて血糖値の上昇が認められなかった。
したがって、インスリン治療を中止し2週間後の血清フルクトサミン濃度を測定したところ172umol/lであった。2〜3週間の著しい糖負荷の無いことが推測され、臨床症状もなく一般状態も安定していたため、食事療法のみでの管理に変更した。
現在まで糖尿病の臨床症状の発現はなく良好な管理が出来ている。
【考察】
症例1では、日中飼い主に血糖値下降に必要なインスリン投与量を指示し、インスリン過剰投与をによる低血糖症状が確認される場合はすぐに対応するようにし、夜間は自宅で状態の把握及び来院が難しいために若干インスリン投与量を減らし管理を行っていた。
この治療により臨床症状が軽減し、飼い主もこの治療に満足していた。
今回、血清フルクトサミン濃度測定を行いきわめて良好な管理を目標に置いたことによりこの症例においては夜間のインスリン投与量の増量が必要になり、よりいっそう臨床症状の軽減と一般状態の改善をはかることが可能になった。
症例2は血清フルクトサミン濃度測定を行うことで、一時的ではなく2,3週間患畜の糖負荷の少ないことを推測することが可能になり一日一回の中間型インスリン投与で継続する判断の一助になった。
症例3では血清フルクトサミン濃度測定を行うことにより、病院での血糖曲線に表れないことが多い飼い主の自宅での管理方法の怠慢やインスリン投与ミスによる糖負荷の上昇が無いか再確認を行う必要性を認識する事が可能になった。
再度飼育状況、インスリン投与方法、インスリン管理方法を確認することにより問題点をいち早く解決することが出来た。
症例4の猫は一過性糖尿病であったと思われる。猫の場合は診断時の50〜70%がインスリン依存性糖尿病だが、インスリン治療により高血糖状態が補正され、グルコースによる毒性が緩解されることによりインスリン抵抗性の解消がみられインスリン非依存性糖尿病に回帰する症例も少なくない。
インスリン非依存性糖尿病に回帰したときの最高血中グルコース濃度は138mg/dlで、ほぼ正常値でありインスリン投与終了後にフルクトサミン濃度測定を行い正常値になっていることにより2〜3週間の著しい糖負荷のないことを推測することが可能になり、食事療法のみでの治療を継続する判断の一助になったとおもわれる。
よって糖尿病の犬、猫において評価の一助として血清フルクトサミン濃度測定を行う事によりインスリン必要単位数の決定や自宅管理の慢性的な評価を数値化して評価することが可能になると思われた。
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