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動臨研カンファレンス

犬の後天性重症筋無力症の1例 2003年5月

岡田みどり、阪口貴彦、橋本志津、山村穂積(北川動物病院・東京都)

【はじめに】

イヌの重症筋無力症は骨格筋のニコチン型アセチルコリン受容体に対する自己抗体が神経から筋肉への活動電位の伝達を阻害するために起こる免疫介在性疾患である。この阻害は臨床的には筋肉の虚弱として認められる。この疾患の病態生理や診断、治療法、予後に関してはまだ不明な点が多くある。
後天性重症筋無力症は、どの犬種でも起こる可能性はあるが、特にゴールデンレトリバー、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバーで好発すると言われている。発症年齢は2峰性のピークが認められ、3歳前後と10歳前後である。一般的に見られる症状は、嚥下困難、嘔吐、流涎、 発咳、呼吸困難、四肢の筋肉の衰弱などが挙げられる。臨床型分類では局所型重症筋無力症、全身型重症筋無力症がある。局所型重症筋無力症は明らかな四肢の筋肉の衰弱がないもの、巨大食道症のみのもの、顔面、咽頭、喉頭の筋力低下を伴う巨大食道症、様々な程度の筋力低下はあるものの巨大食道症を伴わないものが含まれる。全身型MGは明らかな四肢の筋力低下があるものをいう。
今回我々は、この全身型に当てはまる、後天性重症筋無力症のイヌに遭遇し、診断方法、治療法について検討した。

【症例】

ジャーマンシェパード、8歳5ヶ月の不妊済みのメス、来院時の体重は25kgであった。4ヵ月前より、下痢を繰り返し、当院受診の1週間前に同症状を示し、某動物病院にて加療中であったが、翌日より嘔吐が認められ、投薬を中止した。その後流涎が認められ、後肢がふらつき、起立困難の状態で転院来院した。初診時の身体検査では体温は39℃呼吸速拍の状態であった。初診時の神経学的検査においては、姿勢反応、脊髄反射は正常、脳神経検査において結膜反射を繰り返しているうちに徐々に低下し、最終的には消失した。初診時の血液検査では白血球が25400/μ�と増加し、生化学検査ではCK値が422IU/�と軽度に上昇していた。抗核抗体検査は陰性であった。胸部レントゲン検査では前胸部に鶏卵大の腫瘤が存在し、巨大食道症が認められた。
これらの検査所見より、後天性重症筋無力症を疑った。重症筋無力症の診断方法には塩化エドロホニウムチャレンジ試験、反復誘発筋電図検査そして抗アセチルコリン受容体抗体測定が挙げられる。塩化エドロホニウムチャレンジ試験は、すでにステロイド療法を始めていたので行わなかった。後者2つの検査を行うために日本大学動物病院に紹介した。第11病日目に日本大学動物病院において、イソフルレン吸入による全身麻酔下にて、胸部超音波検査、筋電図検査を行った。普通筋電図検査において異常部位は認められなかった。また、反復誘発筋電図検査においては漸減現象が認められ、漸減率15.4%と異常が認められた。抗アセチルコリン受容体抗体検査は2箇所の検査機関で同様の測定をした。1つは日本大学から検査依頼をしたイヌ抗アセチルコリン受容体抗体で、結果は陰性であった。もう一方では人の検査機関である三菱化学ビーシーエルでの検査では抗アセチルコリン受容体結合抗体が0.7nmol/�(人の正常範囲:0.2nmol/�以下)と、相対的に高値を示した。

【治療及び経過】

治療は、第2病日よりプレドニゾロン(1�/�、i.m)、アモキシシリン(11�/�、p.o、B.I.D)、ミソプロストール(4�/�、p.o、B.I.D)を投与した。第5病日より4〜5歩歩行可能になり、瞬き反射が正常となってきた。第8病日より歩行はほぼ正常歩行となった。第9病日目に日本大学動物病院において、筋電図検査などを行った結果をもとに、後天性重症筋無力症と仮診断し、臭化ピリドスチグミン(1�/�、p.o、B.I.D)を追加した。その後退院させ、自宅にて起立させたままに保定し給餌をした。2週間毎にプレドニゾロンを減量していき、第40病日目に開胸手術を実施し胸腺腫摘出を行った。術後は、食餌を一日4回に分け流動食を給餌した。術後の経過は良好で、術後2週間で退院したが、その2日後の第57病日目、食餌を突出し、流涎が多いとのことで再来院した。第59病日目に食欲低下、発熱を認め、第61病日目にはふらつき始め、呼吸速拍が認められ、第64病日に死亡した。

【考察】

本症例は、臨床症状や免疫療法、抗アセチルコリン薬による治療で反応が良かったこと、反復誘発筋電図検査によって、漸減減少が認められたことより、重症筋無力症と診断した。そして、抗アセチルコリン受容体抗体測定の結果、陰性であったとしても完全にMGは否定はできないということがわかった。
今回、人抗アセチルコリン受容体抗体測定の結果、人における正常値を超え、陽性と考えられた。このことは症例数を重ねることによって、全身型だけでなく、局所型の重症筋無力症のスクリーニング検査に役立つのではないかと思われた。
人ではMGにおける胸腺摘出が推奨されており、外科治療の予後は良いとされている。しかし、胸腺が腫瘍化していると、寛解率、改善率は低くなる結果となっている。今回我々は本症例に対しても、積極的な治療として、胸腺腫摘出を行ったが、3週間で死亡した。イヌの場合は、巨大食道症に伴う、誤嚥性肺炎が死亡の確率としては高く、本症例の死因としてもその可能性が考えられた。報告によると、巨大食道症を伴い、胸腺腫を摘出した症例で9カ月生存したものがあったが、今回はそれには及ばなかった。


 

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